ハードウエア作りのためのインキュベーターBolt

ボストン、ケンブリッジ界隈には様々なタイプのインキュベーションがありますがイノベーション地区としての成熟度を感じる点は、分野ごとに細分化してきている点でしょうか。
ハードウエアを作るスタートアップを支援するVCが運営しているメーカースペースがBoltです。ボストンの金融街のそばにこんなものが!まさに隠れたガレージという感じで存在するBolt.
ここには誰でも入れるわけではなく審査があり、入居するスタートアップはVCから資金提供をうけます。ソフトウエアはそれほど場所を問わず作れますが、ハードウエアを作るには、器具やそれなりのスペースが必要です。実際に中には、自分が旅行中にペットに自動的に餌をやる機械や一度あけてしまったワインボトルを酸化しない状態で保管でき、注ぐ時もきまった分量をそそげる容器、レストランや食品を扱う店が食品の温度管理や衛生管理をコントロールできるソフトとその機材を作っている会社やPavlokもはいっています。それにしても、もの作り好きにはたまらない空間ですね。

Bolt

Bolt


1階はただのシェアオフィスにみえるのですが、、地下に行くと
Bolt 地下部分

Bolt 地下部分


大きなガレージのようなところにに機械類がたくさんあり、各種3Dプリンターにレーザーカッター、工場にあるような機材がたくさんあります。ここでプロトタイプの製品を作って、工場にもっていって量産するそう。なかなか小さい企業が使える機会が少ない機械があるだけでなく、資金やビジネスプランのサポートに加え、技術的なサポートもしてくれます。

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アクセラレータとインキュベーションの違い ーボストンの場合ー

インキュベーションとアクセラレータ、実際スタートアップがお世話になるであろう確率が高い2つの用語に関してそしてボストンの場合の特徴に関して考えてみたいと思います。

アクセラレーターは大抵90日から4ヶ月程度の間集中的に行われるプログラムを運用します。そして、大抵、シードマネーのようなものが提供され、それに引き換え、3〜8%程度の会社の株式を要求されます。アクセラレータープログラムは大きな資本を調達できるようにし、会社の規模と価値を大きくすることが目的とされます。そのためメンターによる指導、ネットワーキング、どうやって資金調達をしていくか、ということに関して様々なアプローチから学ぶ機会があります。テックスターズやYコンビネータなどが有名ですが、プログラムに参加できる確率は1%程度だといわれれています。

一方、ボストンにある一番有名なアクセラレーターはマスチャレンジになると思いますが、マスチャレンジは、非営利団体です。プログラムに参加してる企業との資本関係はありません。参加社は株式を譲渡する必要もなく、そのかわりといってはなんですが、シードマネーももらえません。しかし、4ヶ月後のファイナルコンペでは、総額2億円近くの賞金が20社近くに分配されることになります。今年プログラムに参加したのは128社そのうち賞金をもらったのは16社,
ということは賞金がもらえる確率12.5%ですね。しかしプログラムに入れる確率が8−10%。結局、賞金をもらうまでの確率はテックスターズ等とあまりかわらないかもしれませんが、プログラムに入るだけでは、基本的にコストがかからない(アプリケーション費用とか宿泊費や食費はかかりますが。。。)ですし、その上ネットワーキングが広がることで、人材獲得や販売チャンネル、資金調達に関するノウハウ等を一気に学べます。場合によっては参加している他社と合併するかもしれません。ベンチャーキャピタルが運営するような少数先鋭のプログラムと違い、成功者をたくさん作り、社会還元を重視したプログラムといえると思います。

インキュベーション施設というと色々なパターンがあるのですが、一般的にはスペースを借りる際に安くスペースを借りることができるかわりに、持ち株の数パーセントを譲渡する、といったことが行われる事が多いようです。(株式譲渡をうけないところもあります)
インキュベータはメンターによって指導される期間が1年以上と長く(メンターがつかない場合もある)会社が成功するという以外に明確なゴールは得にない場合が多いようです。場合によってはアクセラレータプログラムに合格することが目的になっていることもあるそう。資金が大学の補助金であったり、公共(国や地方団体)の資金が補助に出ている場合、家賃が安くなっています。

このブログでもしばしば取り上げるCICですが、世界で一番スタートアップが集積していると言われているCICでは入居社へのメンター制度はなく資本関係もないことから、CICは自社をインキュベータとはみなしていません。しかし、スターアップが集まるコミュニティーを作ることで、そこにベンチャーキャピタルが集まり、大企業が集まり、メンターその他、スタートアップを支援するような人、企業が集まりコミュニティー全体がインキュベータの役割をしています。

さて、マスチャレンジとCICの2つの施設に共通していることは、1日中(もしくは数日にわたる)学校のような受動的なプログラムがあって決まった教育をされていたり、メンターがついて誰かがノウハウをきちっと教えてくれるものではないということです。どちらの施設も、場の提供及び、ネットワーキング、ピッチイベントのような目的をもったイベントを行いますが、何が自分達の問題点で何が自分達に必要もしくは、不必要かということは自身で探っていかなくてはなりません。そしてそれを、閉鎖的な環境ではなく、オープンにそして互いに助け合いながらすることで、エコシステムという大きな相乗効果を出そうとしています。

アメリカンドリームも、エコシステムとして上手く機能すると、格差社会が解消できるような気がします。

広がる特定分野に特化したインキュベーター

2010年にMITから派生した数社が集まって始めたサマービル市(ケンブリッジ市の隣)にある、グリーンタウンラボ は全米で一番クリーンテクノロジーのスタートアップが集積しているところです。

そのグリーンタウンラボが来年倍のスペースに拡張されることになりました。現在43社がはいっていますが、去年からウェイティングリストがどんどん伸びていることも拡張の理由にあるそうで拡張後は100社ほどが入れる840平米のスペースになる予定。この拡張には1100万ドルがかけられサマービル市及び、マサチューセッツ州のクリーンエネジーセンターも資金を貸付しているそうです。マサチューセッツ州はクリーンエネルギーに力をいれていており外国からも政府レベルで見学に訪れる人々がいます。グリーンタウンラボには 200キロワットのソーラーパネルがあり、電気自動車のためのチャージステーションが2箇所ついています。ここにはスタートアップだけでなく、シェル等の大企業の研究開発部門もオフィスを置いています。

ボストン周辺には分野に特化したインキュベーターがいくつかあります。
ケンブリッジ市には化学、生物系のウェットラボ(実際に化学や生物実験ができるところ)LabCentralというのもありますし、 ハードウエア(ロボットから補綴器具まで様々なもの)を作るために1億円相当の機械まで用意しているスペースを貸す、Bolt, ロボット企業が集まるインキュベーター等、似たような分野にいる起業家達が集まると、情報も早く入ってくるし、互いに協力しあうこともでき相乗効果が生まれるようです。
ちなみに、TedxCambridgeにもきていたGrove というLEDを使って室内で食物を育成できるようなシステムを作るアクアポニックスの会社もグリーンタウンラボにあります。

Grove

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イノベーションエコノミーをどのように育てるのか   −ケンブリッジ市の成功例から学ぶ−

日本でもイノベーションを起こすための取り組みが色々検討されていますが、ケンブリッジ・ボストンエリアでなぜ、イノベーションエコノミーが成功しているのかということを簡単に説明したいと思います。

一つとても大事な点はイノベーションを起こし、成功する起業をするということがまるで、その会社一つ、もしくは偉大な起業家一人を育てるというように思われている部分があるのですが、地域として成功するためには、エコシステムとして成り立たないと、継続して繁栄していきません。

ここでいうエコシステムとは循環する、という意味ですが、このシステムが地理的にも非常に集約されていることに大きな意味があります。

ケンブリッジ市の例でみると、まず
1 大学が集中している
ハーバード、MITといった世界でも最高峰の大学やその研究所を中心にケンブリッジ市、及びボストン周辺には多数の大学が集まっており、日々新しいテクノロジーやアイデアが生み出されます。

2 ベンチャーキャピタル
エンジェルと呼ばれる個人投資家や、ベンチャーキャピタリストが大学からスピンオフしたスタートアップを支えています。

3 インキュベータ
CIC(ケンブリッジイノベーションセンタ−)のようにメンターやベンチャーキャピタルも出入りするような起業家達のコミュニティーを作っているワーキングスペースが数多くあります。

大学で生まれた新しいテクノロジーやスタートアップはベンチャーキャピタルからの資金提供やメンターの助けを得て、コワーキングスペースのような場所(インキュベータ)で育っていきます。そこは、起業家達が集まるコミュニティであり、互いに情報交換したり、メンターからの支援を受けたりすることができます。そして、大きくなった企業はさらに、別の場所に移るもしくは、大企業に売却されて、多額の資金を得た起業家達は今度はメンターや投資家として新たな起業家を育てたり、またシリアルアントレプレナーとして、次の事業を立ち上げたりしていくのです。そしてそれがMITを中心にして半径2〜3km程度の範囲のところで行われています。場所が集積するのがいい理由というのは人の流れが密になり、人がコミュニティに帰属する意識も上がるからです。コミュニケーション量も増えることでそこからまた新たなものが生まれる可能性が高くなります。

そして、上の表の3つの要素の中でさらに細分化が進んでいます。例えば、インキュベータ一つとっても、ラブセントラルのように、バイオテックの為のインキュベータや食関連のインキュベータ、またマスチャレンジのように、一つの施設の中に、スタートアップ、ベンチャーキャピタル、メンターを組み込んだスタートアップをより、積極的に育てるようなアクセラレータと、それぞれがさらに細かく枝分かれしているのです。
大学の中にも各大学がアントレプレナーセンターを構え、メンターの紹介、ベンチャーキャピタルへのつながりと、学生起業を支援しているところも多くあります。

マサチューセッツの州知事は、来年から変わります。新しい州知事の課題は、成功したケンブリッジのような、イノベーションエコノミーの集積地をマサチューセッツ州内の他のエリアでも作ることを支援できるのかということになります。

日本の場合、必ずしもこのパターンではないとしても、成功するイノベーションエコノミーを作れるかは資金を作り次に投資する、という資金の流れと人を育て、育った人が次の世代を育てるというエコシステムが、あるまとまった地域で作れるか否かではないかと思います。

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What is your passion? マスチャレンジ賞2014

今年で5回目になるマスチャレンジ賞が発表されました。1700人の観衆が見守る中、128社の中から、最終的に選ばれた26社の1分間ピッチが行なわれ、3人のゲストスピーカーも加わり、スピーチをしました。

まず、この26社に選ばれるのが問題なのですが、バイオ関連、水、NPO等マサチューセッツ州にどれだけの雇用が生まれるのかという視点、製造業回帰を視野にいれたマサチューセッツ州の方針というのが見え隠れする選考だったと思います。参加者がマスチャレンジに参加してよかったと思える点は、資源(ベンチャーキャピタルであったり、人材、メンター、取引先等)へのアクセスが劇的によくなることだといいます。それだけ、たくさんの企業、団体、個人が支援しており、今年の賞金総額は175万ドル、去年から着実にパワーアップしました。来年から始まる、ロンドンそしてすでにコラボレーションしているイスラエルからも賞金がでました。

masschallenge 2014

masschallenge 2014

今回はゲストスピーカーとして、マサチューセッツ州のパトリック州知事、ウーバーのCEOトラヴィス・カラニック氏、グーグルの元CEOエリック・シュミッド氏そしてALS(筋萎縮性側索硬化症)アイスバケットチャレンジのナンシー・フレイツさん、というかなり豪華なメンバーです。

masschallenge 2014 UBER

masschallenge 2014
UBER

今日はこのALSアイスバケットチャレンジの共同クリエーター、ナンシー・フレイツさんの話について紹介します。
マスチャレンジが彼女にこのアワードセレモニーでのスピーチを依頼した時に、自分がこの会で話すことはとても自然に思えたといいます。それは彼女自身が起業家であり、このALSという病気の社会的認知度を上げるためにとった手法はビジネスと同じだったから。
アイスバケットチャレンジの成功で、世界150カ国からの、寄付金も年末までには1億5000万ドルに到達しそうです。
世界中で90分に一人がALSと診断されているのに、この病気の認知度が低く、正しく理解されていない、色々なサポート団体が世界中にあっても、それぞれの連携やフォローができていない、アメリカではALS、ヨーロッパではMNDとしてまるで別の病気のように認識されていた、といったことを改善すべく、活動をしてきました。この約2年間でALSの支援団体がうけた寄付金のうち18歳から30歳までの分が50%もふえたそうです。

何が彼女をここまで駆り立てたのでしょうか。

ボストンカレッジ出身で野球選手であった息子さんがALSという病気を診断された2012年、医者に ”これからどういう治療をするのですか?” ときいたら ”治療法はありません。余命はあと3~5年でしょう。” といわれ、こんなことは受け入れられない!!!という彼女の思いがそれからの行動につながります。まず、家族、親族で企業のようにチームを作りました。幸い、息子さんは野球部のキャプテンで広い人的ネットワークをもっており、彼自身がいろんなところにコンタクトしました。

”たとえ余命が短いと診断されても毎朝おきて、その1日をどう過ごすかは、その人次第なのです。ポジティブにすごすのか、ネガティブにすごすのか。どうぞ恐れないで、一生懸命情熱的に生きてください。”

社会的に大きな現象がおきた時に、必ずそれを否定する動きもでます。それぞれ事情が違うので全ての人が同じ事に賛同できないということはわかるのですが、じゃあ始めから何もしないほうがましなんでしょうか?批判のための批判で足を引っ張るより、行動する人に何かがもたらされるべきだ、というアメリカを前にすすませている原動力をここに感じました。

少なくとも、あの会場に集まった人達は、世界を変えようという努力をしている人達とそれをサポートしようという人達であり、彼女のスピーチをきいていたらなんだか彼女こそが、賞をもらうのにふさわしいような気がして

What is your passion?

そんな声がきこえてきました。

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