ボストンから学ぶ、イノベーティブで自立した人材の育て方(3 大学の役割 −その2−)

インターンの若年化と海外経験

近年アメリカの大学が重要視していることは、インターンシップの機会及び 海外の大学で学ぶ機会を学生に提供するということです。就職を考えた時、アメリカの求人では経験者求む、ということがよく条件に上がりますが卒業したばかりの学生は通常アルバイト以外で職業経験がないことが多く、一方就職率をあげることが大学にとって学生を獲得するために重要な要素になっているからです。例えば ノースイースタン大学は大学期間中に半年〜のインターンをする機会を提供する(Co-opプログラム)ことで、卒業後にすぐに就職先がみつかりやすいということから人気になり、この10年ほどでランキングを随分あげてきました。(US newsによると2000年には全米98位だったこの2017年には39位)

ノースイースタン

ノースイースタン大学の学長Aoun氏は大学のランキングを上げることに大きく貢献

ヨーロッパの場合も言えますが、昔は学士レベルを卒業してからインターンをするのが一般的だったものが、学士の間に一度、修士の間もしくは卒業してからもう一度、それから本格的に就職活動をするということで、インターンをする機会が早くなり、その回数やその期間も伸びてきているようです。日本のように就職活動が一斉で企業側が新入社員の研修をきっちりするわけではないので何の経験もないことは就職活動のスタートラインに立つことさえも難しいという傾向にあります。インターンシップの内容も、期間もみんなが一緒の時期にまとめて同じような研修を受けるというわけでもないのでまさに仕事をしながら色々覚えて行くというある意味企業側にも負担になり得るものになり、インターンシップをするように学生に勧めている学校ほど、その下準備にも力を入れて、企業側の負担を軽くする努力をしてます。専門性によっては事前に学校で業界特有のソフトウエアを使ったり、プログラミングを習うことが直接インターンシップ先で役に立つからです。学生側にしてみればトラブルのある現場や、忙しい現場ほど学ぶ機会も多く、失敗から学ぶということが若いうちはそれほど問題なくできるのでインターンシップの機会が大学の中で組み込まれれていることは とてもありがたいことです。 学校側の準備で学生も何らかの知識を事前に得ていれば全てを教えてもらおうという受け身の体制ではなくなり自分が何かを提供できる、という気持ちの余裕も生まれます 。

また高校を卒業してから、ギャップイヤーをとる学生も増えてきましたが、従来からある海外ボランティアのようなギャプイヤー活動の他にも半年から1年近くスタートアッピでインターンをする学生もいます。ボストンの場合は特にスタートアップが多く、若者がボランティアで働ける機会も多くあるということがいえます。スタートアップのような高エネルギーなところで働くという経験を 若いうちに得られるということはそれだけでも、価値があります。

それから海外の大学で学ぶ短期留学制度を提供しているところも増えています。当然英語は世界でもビジネスの主要言語であり、重要な言語ですが、だからといってはなんですが、アメリカでその他の言語を学ぶのはそれほど簡単なことではありません。アメリカのことを世界の人は知っていてもアメリカ人は海外をあまり知りません。近年の社会情勢をみても若いうちにいろんな経験をする機会を持ってもらい世界を知ってもらうというのは大事だと大学側が思っている証拠だと思われます。一方、せっかく海外にでてもアメリカ人だとわかると、英語の練習相手にさせられてしまうというのも彼らの悩みではあるようですが。。。

欧と米の対比 インターンシップ例 参考2

あるヨーロッパ企業のインターシップの場合、プログラムが初めから組んであるわけではなく、半年間のインターンシップの期間にいくつかのプロジェクトをやってもらいます。滞在期日と目標が決まったら目的のプロジェクトをどうやったら成し遂げられるかを考えさせ、そのやり方を途中経過を確認しながらも基本的には本人にやらせる、という形にしています。長期間のインターンになるほどそれは 実際の仕事とほとんど変わりはなく、だから卒業した後にすぐに即戦力になるのです。

 参考記事:
就職に強い影響を及ぼすインターンシップ経験

若年化するインターンシップ −海外でどうやってインターン先をみつけるか−

ボストンから学ぶ、イノベーティブで自立した人材の育て方(3 大学の役割 −その1−)

大学は学びの場であると同時に研究機関であり、人材育成をする場です。

日本のように、一般的に学士のレベルでは専門性が高くありません。よって、一度入学しても、途中で専攻をかえたり、そもそも、はじめから専攻を決めないで入学するということも可能でリベラルアーツ大学のように幅広く色々勉強してみて、最終的に専門的なことを学ぶ為に大学院に行くという考え方もあります。

研究機関としてはボストン周辺にはハーバードやMITを始め世界のトップレベルの研究機関が集まり、その研究は実用化され、ビジネスに結びつけることができるような仕組みが出来ています。

大学の起業支援

各大学にはそれぞれの大学発のスタートアップを支援する仕組み(例えばMITの場合、アントレプレナーシップセンターやDeshpande センター)があります。特にDeshpandeセンターはイノベーションテクノロジーの分野で豊富なメンター勢をプールしており大学での研究に対して金銭的に投資するだけではなく、 その研究をどのように製品化(サービス化)してどのように市場に出していくのかというところまでサポートします。最先端の技術を使って起業する場合、一分野の専門家だけでなく、複数の分野の専門家がサポートする必要がでてくることも多く、どの分野にどういった人材が必要か、又、どの分野とどの分野を掛け合わせたらいいかなど、幅広い分野にまたがりコーディネートもしてくれます。(ちなみにDeshpande Centerでは、そのしくみを海外の大学にも公開しています。)

MITではMBAプログラムを提供するスローンスクールや、賞金100K(10万ドル)をかけた起業コンペがありますが最近はそれだけでなく、MITは周辺エコシステム全体を盛り上げるための仕組み、Engineというアクセラレータプログラムを始め、MITからのスタートアップだけでなく、周辺エコシステムを強化するプログラムを始めました。通常大学が運営するプログラムは少なくとも参加チームの一人は大学の学生である必要があったり、学校によってはかなり閉鎖的なプログラムも多いのですが、Engine はボストンのエコシステム全体を底上げするようなプログラムであるのが特徴です。一方、ハーバード大学はハーバードの学生のためのアントレセンターであるHarvard i-labや ここ最近ではライフサイエンススタートアップのためのインキュベーションを新しく立ち上げました。しかし、あくまでもハーバードのコミュニティーのためということで、両校のスタンスの違いが明確に出ています。2017年夏には稼働予定でMIT内外より既に150億ドル以上の資金を集めています。ボストンエリアで特徴的なのはMITや、ハーバード、ボストン大学といった通常の大学のみならず、バークリー音楽大学のような専門性の高い大学でもビジネスと結びつけるようなプログラムを提供することで学生が専門性とビジネスを結びつけられるような 機会を提供していることです。

欧と米の対比 参考1

ちなみにEntrepreneurship and Innovation at MITのリポートによると、アメリカで新しく設立されたビジネスの約50%が5年以上存続し、10年続くところは35%だと言いますが、MITの卒業生が起こした会社の80%は5年以上存続し10年存続するのは70%になると言います。

一方、世界ランキングではアメリカ以外の工科大学ではトップに立つ、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)からのスピンオフの業績とスイス経済に与える影響を分析したリポートがあります。ETHの学生(もしくは卒業生)が立ち上げた会社は立ち上げ5年後の生存率が92%でこの生存率はスイスで誕生したほかのスタートアップより40%も高い数字になるといいます。(これは1973年以来ETHからスピンオフした企業、315社を追って調査したもの)これは絶対数がすでに少ないということもあるとは思いますが もちろん数字上の裏付けはないものの、スイス人も日本人に似て慎重であり、リスクテーキングをしない、失敗が許されにくい社会であるということがあるのではないかとの分析があります。マイナス部分を逆手にとって起業のハードルが高いことがかえって起業の成功率をあげているのかもしれません。

参考記事:

バークリー音楽大学の起業教育

進む大学のイノベーション教育

大学での起業教育がトレンディー、ボストンカレッジも創設するアントレセンター

タフツ大学が取り組む起業教育

大学による、生き残りをかけた起業教育