ボストンから学ぶ、イノベーティブで自立した人材の育て方(3 大学の役割 −その1−)

大学は学びの場であると同時に研究機関であり、人材育成をする場です。

日本のように、一般的に学士のレベルでは専門性が高くありません。よって、一度入学しても、途中で専攻をかえたり、そもそも、はじめから専攻を決めないで入学するということも可能でリベラルアーツ大学のように幅広く色々勉強してみて、最終的に専門的なことを学ぶ為に大学院に行くという考え方もあります。

研究機関としてはボストン周辺にはハーバードやMITを始め世界のトップレベルの研究機関が集まり、その研究は実用化され、ビジネスに結びつけることができるような仕組みが出来ています。

大学の起業支援

各大学にはそれぞれの大学発のスタートアップを支援する仕組み(例えばMITの場合、アントレプレナーシップセンターやDeshpande センター)があります。特にDeshpandeセンターはイノベーションテクノロジーの分野で豊富なメンター勢をプールしており大学での研究に対して金銭的に投資するだけではなく、 その研究をどのように製品化(サービス化)してどのように市場に出していくのかというところまでサポートします。最先端の技術を使って起業する場合、一分野の専門家だけでなく、複数の分野の専門家がサポートする必要がでてくることも多く、どの分野にどういった人材が必要か、又、どの分野とどの分野を掛け合わせたらいいかなど、幅広い分野にまたがりコーディネートもしてくれます。(ちなみにDeshpande Centerでは、そのしくみを海外の大学にも公開しています。)

MITではMBAプログラムを提供するスローンスクールや、賞金100K(10万ドル)をかけた起業コンペがありますが最近はそれだけでなく、MITは周辺エコシステム全体を盛り上げるための仕組み、Engineというアクセラレータプログラムを始め、MITからのスタートアップだけでなく、周辺エコシステムを強化するプログラムを始めました。通常大学が運営するプログラムは少なくとも参加チームの一人は大学の学生である必要があったり、学校によってはかなり閉鎖的なプログラムも多いのですが、Engine はボストンのエコシステム全体を底上げするようなプログラムであるのが特徴です。一方、ハーバード大学はハーバードの学生のためのアントレセンターであるHarvard i-labや ここ最近ではライフサイエンススタートアップのためのインキュベーションを新しく立ち上げました。しかし、あくまでもハーバードのコミュニティーのためということで、両校のスタンスの違いが明確に出ています。2017年夏には稼働予定でMIT内外より既に150億ドル以上の資金を集めています。ボストンエリアで特徴的なのはMITや、ハーバード、ボストン大学といった通常の大学のみならず、バークリー音楽大学のような専門性の高い大学でもビジネスと結びつけるようなプログラムを提供することで学生が専門性とビジネスを結びつけられるような 機会を提供していることです。

欧と米の対比 参考1

ちなみにEntrepreneurship and Innovation at MITのリポートによると、アメリカで新しく設立されたビジネスの約50%が5年以上存続し、10年続くところは35%だと言いますが、MITの卒業生が起こした会社の80%は5年以上存続し10年存続するのは70%になると言います。

一方、世界ランキングではアメリカ以外の工科大学ではトップに立つ、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)からのスピンオフの業績とスイス経済に与える影響を分析したリポートがあります。ETHの学生(もしくは卒業生)が立ち上げた会社は立ち上げ5年後の生存率が92%でこの生存率はスイスで誕生したほかのスタートアップより40%も高い数字になるといいます。(これは1973年以来ETHからスピンオフした企業、315社を追って調査したもの)これは絶対数がすでに少ないということもあるとは思いますが もちろん数字上の裏付けはないものの、スイス人も日本人に似て慎重であり、リスクテーキングをしない、失敗が許されにくい社会であるということがあるのではないかとの分析があります。マイナス部分を逆手にとって起業のハードルが高いことがかえって起業の成功率をあげているのかもしれません。

参考記事:

バークリー音楽大学の起業教育

進む大学のイノベーション教育

大学での起業教育がトレンディー、ボストンカレッジも創設するアントレセンター

タフツ大学が取り組む起業教育

大学による、生き残りをかけた起業教育

 

 

 

ブランダイス大学が行う3日間のスタートアッププログラム

ボストンにはビジネススクールやビジネスプログラムを提供する大学が多くあります。ブランダイス大学は3年前から3日でスタートアップを立ち上げるコンペティションプログラムを始めました。(Brandeisnow 4月15日)

ブランダイスインターナショナルビジネススクール(IBS)では55時間でビジネスプランを作りピッチをする3 Day Startup (3DS)プログラムを開催しており今年で3度目になります。
このプログラムはビジネス専攻の学生だけでなく、テクノロジーイノベーションマネージメントクラブと共に、異なった分野を勉強する学生を横につなげ, 参加者の起業意欲を高める役割を担っています。

週末をかけて行われるこのコンペは4大陸で行われ、アイデアを実現可能な形におとしこみ、学生をメンター、投資家、能力のある同僚達とつなげていきます。前回までの2回のコンペでは21のスタートアップが誕生しました。

この経験は他の学生達がすることととは全く違う学習経験であり、通常の数ヶ月かかるコースと違い、週末に学生にプレッシャーをかけることで起業家としての筋肉を早くつけることができます。
今年は23人の参加者がチームに別れブレインストーミングをし、ビジネスアイデア、プラン作り、マーケットリサーチを行い、製品のブランディングを考えマスチャレンジへの参加を目標に競いあいました。そしてメンターや教授、投資家や地元の起業家達からフィードバックをもらいました。

教室で習える事も沢山ありますが、外にでて実際にやってみることが重要です。このプログラムの一番重要な側面は、エネルギーの高い環境下によってチームで協力して何かをなし遂げようという雰囲気が促される、ということのようです。

4月4日の金曜の午後から始まったプログラムは日曜の午後に学生や教授、卒業生等の観衆の前、及び、マスチャレンジやベータボストン、ベンチャーキャピタル等の代表の前でビジネスプランをピッチし、1チーム(市民が作る政治ニュースのウェブサイト)が秋からのマスチャレンジのプログラムに申し込むことになりました。

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このプログラム、実は 2008年にテキサス大学で始まり、もともとは学生の団体が提供していたそうですが、現在ではNPOになっています。アメリカ国内だけでなく世界中のいろんな大学が(ヨーロッパ、南米、アジア、アフリカ、ただし日本ではありません)このプログラムを採用しています。短期間でビジネスプランを作り、簡単なマーケティングもしてビジネスの大枠を作るというで、ビジネスモデルのハッカソンという感じでしょうか。
ある意味、短期決戦で、判定がでるので、問題点や修正点を改良して、また他のコンペに出たりすることも可能ですし、ビジネスをどうやって立ち上げるかということが集中的に学べるので非常に効率がいいといえそうです。こういうのを企業側が、テーマを与えて、学生にいろんなビジネスモデルを考えてもらう、コンペをしたら日本でもできそうな気がしますね。企業側としてみれば、採用の幅も広がりそうです。いいアイデアがでれば、企業でプロジェクトとして、採用してくれると学生側も意欲をもって仕事に望めそうです。

進む大学のイノベーション教育

何十人ものノーベル賞受賞者に数々の発明の手助けをしてきて(例えば、ラジオにレーダー、近代ロボティクス、バイオテクノロジー等)有名卒業生としては、財務長官、イスラエルの首相、宇宙飛行士と数えきれないほどの有名人をかかえるMITが不十分であると感じているものは何でしょう?1月26日のボストングローブには新たな取り組みをし始めたMITの話がありました。

MITは隣にあるハーバード大学だけでなく、スタンフォード大学や世界中での大学競争に直面しているという自覚があります。事実、ハーバードはイノベーションキャンパスとビジネスパークを建設中ですし、シリコンバレーのスタンフォード大学では学生がどんどん起業して、何人も億万長者が生まれています。

一方、MITはつい最近までリサーチと教育の他はイノベーション分野に関しては特に何もしてきませんでした。
そこでコンピュータチップを作っているアナログデバイセズ社の共同創設者ステイタ氏や、Dropboxの共同創始者のヒューストン氏のように成功している有名な卒業生と学校関係者の助言でライフ学長は21世紀における技術革新と起業のリーダーをキャンパスで育てるプログラムを始めました。

アイデアをどうやってビジネスにするのか、というブートキャンプにエンジニアの学生が参加することで、単位がとれることになりました。
Start6と呼ばれるこの2週間半のプログラムでは50人以上の学生が集まり、20のテック企業やベンチャーキャピタルが投資家と契約を交渉することで成功する商品を作ることについて論じます。学校側としては、このような機会を学生に与えて、起業に関して学んでもらいたいと思っています。
学部生や、ポスドクの為にもコースを用意して、起業に必要な知識を養ってほしいという、背景があります。
又、10年前には、アイデアを現実にする機会が限られていましたが、イノベーションの為に新しい建物をたて、学生や教授、講師、卒業生達がみんなで、アイデアを出し合い、インスピレーションを現実のものにしてもらうスペースを作ろうとしています。

起業を研究するNPO法人Ewing Marion Kauffman Foundationの調べによると、MITの卒業生は約26000の会社を作り、300万人以上の雇用を生んでいるといいます。それでもまだポテンシャルはあるとの分析です。

米国内だけでなく世界中の大小様々な大学がイノベーションと供にスタートアップの世界に進出しており、コーディングに関する新しいコース、ビジネスプランの書き方、会社を始めたい学生が資金調達できるようにサポート等をし始めました。25年前には数百の大学が起業関連のことを提供していましたが、今日ではほとんどどこにでも何かしらあります。

学長による、新しいイニシアティブの目的は、MIT卒業生をもっと起業家に育てるためのもので、MITの人達をエンジニアとしてだけでなく、ビジネスができる、エンジニアにしようという動きです。

MITにはスローンスクールというビジネススクールがあります。これはエンジニアだけでなく、様々なバックグラウンドの人がビジネスを学ぶ為にくる所ですが、ビジネススクールにわざわざいかなくても、本来商売はできるわけで、勉強したことを、実践してお金に変えるという流れはこのままどんどん加速しそうです。

タフツ大学が取り組む起業教育

タフツ大学が、アントレプレナーシップに力を入れ始めた、という記事が、11月11日のボストングローブ紙にあります。

1年ほど前に、起業リーダーシップ学部長は代わり、10%の学部生だけが取り組んでいたこのプログラムをもっと学生の中に広めようとしています。賞金10万ドルのタフツのビジネスプランコンペへの申請件数は18から109に増えました。

Tufts.ioとよばれるこのアントレプレナーシップコースは、アカデミックな講義と、メンターによる、指導でなりたちます。そこでは学生がどうやって起業をするかを習います。現在、世界で重要な製品は大学生くらいの創始者達が作ったものが多数あり、学生にビジネスがすぐにでも始められる可能性がある事を示しています。このコースでは、“幸福が成功につながる” ということを教えたいと、アメリカンアパレルの創始者でTufts.ioで教えているダブ・チャーニーはいいます。ちなみに、彼もタフツ大学の学生の時に、アメリカンアパレルを始め、中退しています。

そして、タフツのスタートアップを支援する為に、タフツベンチャーファンドがあります。
タフツ大学は国際関係論や、外交政策で有名ですが、タフツの目指しているものは、その強みに経済的な知識をブレンドすることだそうです。MITスローンスクールやハーバードビジネススクールのような、MBAスクールを作るのではなく、タフツのもっている強みをいかした生産的なエコシステムを作ることが目的です。

起業リーダーシップ学部が、大学内を横につなげているという感じになるのでしょうか。
アカデミックなことをいかにビジネスにつなげていけるか、という実践的なプログラムになるようです。

理系の学生が、テック系の製品を作って、イノベーションをおこす、というのは一つの道ですが、文系の学生だって、サービスに特化して、理系の学生の技術的なサポートがあれば、イノベイティブな商品はできそうです。また、国際関係論を学ぶ学生なら、世界の問題に焦点をあてた、社会起業的な分野のアイデアもでてきそうです。総合大学のいいところは、様々な学部があるので、それを上手く横につなげるパイプがあれば、無数のアイデアを生む可能性がでてくることでしょうか。学生も、自分の勉強が就職活動の為だけでなく、誰かの役に立つ事がわかれば、きっと学習意欲がわくと思います。

こういった方向性の、起業教育なら日本の大学もやれそうな気がします。