進む大学のイノベーション教育

何十人ものノーベル賞受賞者に数々の発明の手助けをしてきて(例えば、ラジオにレーダー、近代ロボティクス、バイオテクノロジー等)有名卒業生としては、財務長官、イスラエルの首相、宇宙飛行士と数えきれないほどの有名人をかかえるMITが不十分であると感じているものは何でしょう?1月26日のボストングローブには新たな取り組みをし始めたMITの話がありました。

MITは隣にあるハーバード大学だけでなく、スタンフォード大学や世界中での大学競争に直面しているという自覚があります。事実、ハーバードはイノベーションキャンパスとビジネスパークを建設中ですし、シリコンバレーのスタンフォード大学では学生がどんどん起業して、何人も億万長者が生まれています。

一方、MITはつい最近までリサーチと教育の他はイノベーション分野に関しては特に何もしてきませんでした。
そこでコンピュータチップを作っているアナログデバイセズ社の共同創設者ステイタ氏や、Dropboxの共同創始者のヒューストン氏のように成功している有名な卒業生と学校関係者の助言でライフ学長は21世紀における技術革新と起業のリーダーをキャンパスで育てるプログラムを始めました。

アイデアをどうやってビジネスにするのか、というブートキャンプにエンジニアの学生が参加することで、単位がとれることになりました。
Start6と呼ばれるこの2週間半のプログラムでは50人以上の学生が集まり、20のテック企業やベンチャーキャピタルが投資家と契約を交渉することで成功する商品を作ることについて論じます。学校側としては、このような機会を学生に与えて、起業に関して学んでもらいたいと思っています。
学部生や、ポスドクの為にもコースを用意して、起業に必要な知識を養ってほしいという、背景があります。
又、10年前には、アイデアを現実にする機会が限られていましたが、イノベーションの為に新しい建物をたて、学生や教授、講師、卒業生達がみんなで、アイデアを出し合い、インスピレーションを現実のものにしてもらうスペースを作ろうとしています。

起業を研究するNPO法人Ewing Marion Kauffman Foundationの調べによると、MITの卒業生は約26000の会社を作り、300万人以上の雇用を生んでいるといいます。それでもまだポテンシャルはあるとの分析です。

米国内だけでなく世界中の大小様々な大学がイノベーションと供にスタートアップの世界に進出しており、コーディングに関する新しいコース、ビジネスプランの書き方、会社を始めたい学生が資金調達できるようにサポート等をし始めました。25年前には数百の大学が起業関連のことを提供していましたが、今日ではほとんどどこにでも何かしらあります。

学長による、新しいイニシアティブの目的は、MIT卒業生をもっと起業家に育てるためのもので、MITの人達をエンジニアとしてだけでなく、ビジネスができる、エンジニアにしようという動きです。

MITにはスローンスクールというビジネススクールがあります。これはエンジニアだけでなく、様々なバックグラウンドの人がビジネスを学ぶ為にくる所ですが、ビジネススクールにわざわざいかなくても、本来商売はできるわけで、勉強したことを、実践してお金に変えるという流れはこのままどんどん加速しそうです。

買収による人材確保

大抵の産業では、会社を立ち上げても上手くいかなければ、従業員を解雇して、倒産と申告するわけですが、テック系の会社の場合、そういう清算のしかたではない ”人材確保のための買収”(acqui-hired)という形があります。 それに関しての記事が1月26日のボストングローブにあります。

沢山のスタートアップは50万ドル〜100万ドル(5000万円〜1億円相当)資金調達できても、その後資金繰りに困る事が多いのが現実です。
しかし、事業が上手く行かない会社でもモバイルアプリを作れるエンジニアや、オンラインのサービスやウェブのソフトウエアなどを作れる人材を多く抱えている場合、会社を売却することで起業家にとっては、いい形で会社をクローズでき、従業員も職を失わずにすみ、投資家もお金を取り戻す事ができます。”人材確保のための買収” という形(起業家側からみれば、売却)は、売却側のみんなにとっていいように作用する形のようです。Twitter, Zynga, Dropbox 等の会社も沢山の買収による人材確保を行ってきています。

通常の買収と人材確保の為の買収の違いは、伝統的な買収では製品、売り上げ、顧客ベースの組み合わせを取得するのに対して、人材確保の為の買収では従業員が主な対象になります。そして、会社を売却できた起業家は沢山の金額を手にし、また買収された会社側にも数年いることを要求できるケースが多いようです。

一方、それはボストン界隈の地域にとってはいいことともいえず、このような取引の場合、西海岸の会社のほうが、高い金額をだすので、人材も西海岸に移ってしまうことが多々あるとの事。

現状は人材市場の需要と供給のバランスがひどく悪い状態で、これが続く限り、これからも人材の買収という形は増えていきそうです。

ただし、買収側にとってみれば、これはコストパフォーマンスがいいとは思えない取引でケンブリッジの投資会社のAtlas Ventureによると、このトレンドは長期的には続かないだろうと予測してます。

要するにビジネスとしての仕組みが上手く作れなくても、いい商品が作れる場合こういう、クロージングの仕方が成り立つということですね。
実際、スタートアップを立ち上げて、ある程度の会社規模にまでもっていくのは相当なパワーがいることで、自分の立ち上げた事業が、お金の為なのか、それとも自分の理念や哲学の為なのか、社会を変えるためなのか、ということでそのクロージングの仕方が自分にとって成功といえるのか、失敗なのか違いがでてきそうです。

女性の管理職がふえない現状

マサチューセッツ州は、アメリカの他の地域に比べ革新的な地域ですが、”女性の管理職” という観念でみると、女性の社会進出はそれほど進んでいないということが 女性のリーダーを増やそうと活動している団体 Boston Clubによって発表されました。 ボストングローブ1月23日

以前より、より多くの女性が米国100社の大企業の高い役職に従事しているといいますが、調査をした18州のうちマサチューセッツは8位という結果で、これがエグゼクティブやCEOレベルになると10位になってしまうそうです。(ちなみにトップはミネソタ州、オハイオ州、ニュージャージー州)
マサチューセッツ州のボードのメンバーのうちの13.8%が女性で、(ちなみに、米国全体では15〜17%)それでもこの数字は10年前よりも50%ほどあがっています。そして、100社のうちの3/4に、少なくとも一人の女性がディレクターとしてはいっています。

リーダーシップに多様性がでると、企業のボトムアップができるだけでなく、社会的責任に対する努力が向上する、ということで会社はとりあえず、一人女性を役員にいれようとしますが、少なくとも会社のカルチャーを変えるためには3人は必要、そうすることによって、女性の発言権も増え、役員会が効果的になります。すると、男性のボードメンバーの認識が変わり、女性のディレクターとしてでなく、新しいディレクターとしてみるようになるそうです。

国の100の大企業のうち10社だけが、女性の役員を3人をボードメンバーに迎えています。ボードメンバーの問題は大抵親戚か投資家であり、仲間内になってしまっていることです。ボードメンバーの多様性が必要なことがみんなわかっているのですが、なかなかその状況をかえることができません。
沢山の産業において、かなりハイクオリティーの女性が多いのですが、実際にはみんなが知っている人達が選ばれてしまうそうです。

人的ネットワークが少ないこと、エグゼクティブになれるようなキャリアパスを進んでいる人が(スキルも含め)十分にいないこと、そして、社会的地位にあまり執着しない人が多いといったことが女性の役員の数が増えない原因に考えられるでしょうか。

ドライバーのいない車

長年のライバルであるMITとスタンフォードが協力して、フォードの為にドライバーのいらない車を開発しているという記事が1月23日のボストングローブにありました。

会社のゴールは”常識を兼ね備えた車”を作ること、とフォードはいいます。運転する人は、大抵、見える事と同じくらい見えない事を重視し、次に起こる事を予想することができますが、その直感のようなものを車に装備させたいというのです。
この、次に起こるシナリオを考える機能は周りのリスクをよりよく察知したり、歩行者や他の車、対象物をさける道をみつけたりすることを可能にします。
MITはどこに歩行者や, 動いている車があるかという事を予測する能力を改良することを手伝っており、一方スタンフォードは、トラックなどの障害を見つけ、それに応じてどう反応するかということについて手を貸しているそうです。

人間だって”直感”というものが、どういうふうに機能するのかよくわかっていないのに、それをどうやって車に装備させるのか、興味がありますね。
これからは脳の時代だといわれますが、機械にも脳の機能が着々と組み込まれていくようです。そのうち、運転手という職業がなくなる??車の運転を楽しむということは、特別な趣味になる日がくるのでしょうか。。。

トラウマを消す方法

サイエンスフィクションが現実になりつつあります、少なくともねずみの実験では。

ここ数年のMITの実験成果は、別の記憶をうえつけたり、本当の記憶を再生させたりすることでしたが、薬と行動セラピーで以前に起こったトラウマを消し去る事に成功した、とMITの科学者が発表したことが1月17日のボストングローブにありました。

この研究はまだ人に活用できるものではありませんが、どうやって記憶が形成され、維持されるのかという質問に対する新しい洞察をなげかけるものであります。
MITのピカワー学習・記憶研究所の所長である、ツァイ先生はもともとアルツハイマーの研究をしており、2007年に失った記憶を再生させる試験薬を特定することに成功していましたが、それが心的外傷後ストレス障害を抱える人達にも使えるのではないだろうかと考え始めました。
ツァイ先生のグループは学習と記憶に関係する遺伝子を活性化するHDAC抑制剤と呼ばれている合成物の種類から治験薬をためしました。
心的外傷後ストレス障害を抱える人の治療で安全な状況下でひどい記憶を新しい経験で書き換えるというやり方がありますが、これはいつも機能するとは限りません。そこでツァイ先生は薬がこの有害な記憶を書き換えることができるのか考えました。
記憶喪失の場合にこの薬を使う場合は、長期間の使用になるので副作用が心配されますが、恐れのようなネガティブな記憶を消すのにはその心配はあまりなさそうです。

2013年にスイスローザンヌ工科大学のバイオ、ニューロエンジニアリング関連の大きな研究所(ヒューマン ブレインプロジェクト含む)がジュネーブにできましたが、そのイベントのスピーチで学長がこれからは、脳の時代になる、と発言されていましたね。(ローザンヌ工科大学というのは英語圏でない工科大学の中では世界トップ3に入る大学で、その影響力もかなり高い大学です。)

確かに、脳の研究というのはこれからますます進む分野なのでしょう。友人の、ニューロサイエンティストに ”人って考え方を変えたりすることで病気を治したりできると思う?”ときいたところ、”そういうことはあると思う、それが今、科学的に証明されようとしている過渡期だから、実際、病院には瞑想できる所とか、ヨガができる所があって、私達が自分たちで実験して効果を確かめているの。私は太極拳に興味があるけど” と冗談か本当かよくわからない答えがかえってきました。
今までは、スピリチュアルな部分と、科学がずいぶんかけ離れた場所にあったような気がするのですが、これからはこの差が縮まってくるのかもしれません。