1年で終わる職業訓練プログラム-year up-

大学に行きたくても金銭的な事情でいけない、そしてそのために低賃金の仕事しかできない18から24歳までの若者を対象にコンピュータースキルやオフィスで役に立つようなスキル教えることをサポートするyear up というノンプロフィット団体があります。ボストンから始まったこの団体は全米で確実に少しずつ広がっています。

多くの仕事は実際大学にいかなくても特定のスキルさえ身につければ十分やっていける仕事なのですが、そのスキルがないために低賃金の仕事にしかつけない若者たちがいます。一方、企業側は人手不足といって、需給バランスが崩れています。そのギャッップを埋めるために、この団体では24000ドルを一人分として大手企業から寄付をうけています。このお金をベースに、半年基礎勉強、半年インターンシップを行い、その間おこずかい程度ですが賃金も支払われます。プログラムを終了した85%の人たちが4ヶ月以内に就職先をみつける、または大学には入学することができるそうです。

実際、高校卒業後、奨学金をもらって大学にいくことがきまっていたのにもかかわらず、生活費が払えずに結局、進学を諦めた青年がこの1年のプログラム終了後大手製薬会社に入り、年間60000ドル(700万円以上)の給料をもらっているという例もあるそう。寄付をする企業にとってみれば、学生とのコンタクトも直接でき即戦力になる若者を育てることができる非常に有効な投資といえそうです。

本来、時間のかかる職業訓練を短期集中でするというこのプログラム、若者だけでなく転職希望者を対象にしてもいいかもしれません。

大学に行かないという選択からどのようなキャリアパスが描けるのか。

職業訓練校というのはアメリカでもイメージ的に、勉強が苦手な子がいくところという感じが一部にはあるようなのですが、そのようなイメージのせいかどうかわかりませんが、せっかく技術が身についても、それが本当に企業が求める技術かどうかもわからない、企業も人を探しにこない、ところが企業側は、能力のある人が足りない、と嘆く事になっているという現実があります。教育と、産業界の(経済界の)ミスマッチを解消する為にどうしたらいいのか。

大学にいくというキャリアパスのほうが、職業訓練校にいくよりもいい、ということではなく、どちらも違ったいい点があり、将来的にはどちらを選んでも同じくらいの収入のチャンスがあるということにならないと魅力的な選択肢にはなりません。クロニクル•オブ•ハイヤーエジュケーションの7月9日によると、マサチューセッツ州を含め全米10州がこの教育と産業界のミスマッチを埋める為に取り組みを始めています。

2012年より全米で8州の高校が最終学年を職業訓練の年として、主に市場で人手が足りないと言われているIT関連、ヘルスケア、製造業の分野で仕事をしながら学校にいくというプログラムに参加し始めを始め、それが現在10州にまで広がっています。
アメリカ人は4年制の大学の学位をとることに重きをおいていますが25歳までに大学卒の学位をとっているのは三分の一以下の若者だそうで、職業に焦点をあてた教育や訓練という選択肢をもっと考えるべきとの意見があります。

現実問題として、企業が採用する際に、高卒では能力的にたりない、一方、博士号の資格があっても、必要としている以上の能力があったりと、企業側がどのような人材を求めているのか、ということを含めて、職業訓練なり、インターンシップができると、双方のギャップが減っていくと考えられています。
高校卒業後にそのまま大学に行かなくてもいいキャリアパスができると、社会人教育として、その後大学にいったり、別の専門教育をうけたりするという選択肢もうまれるので多様な人生の可能性も生まれるでしょう。

関連記事: 大学にいくことだけが選択肢なのか?

大学にいくことだけが選択肢なのか?

大学をでたほうが、生涯賃金が高くなるとわかっていても、アメリカの大学の費用がこれだけ高いと、学費を払う親達も大学の意味というものを改めて考えさせられているようです。ここ最近、高等教育やその学費に関する様々な切り口の新聞記事が増えています。オンラインで学位がとれるコースも多様化しています(余談ですが、バークリー音楽院もこの秋から学士号がとれるオンラインコースを提供することになりました。)高等教育というものが、”ビジネス”になってしまっているということを多くの人が感じています。大学をでたほうがリターンがいいといってもそれだけが選択肢なのでしょうか。一方、若者の失業率は高いのに、企業では十分なスキルのある人材を確保できないというギャップも生じています。
週末の新聞は高等教育に関する特集で、(ボストングローブ5月11日)面白い数字が並んでいました。

69%

必要なスキルをもったスタッフを雇うことが難しいといっているマサチーセッツ州の雇用者の割合

15.8%

アメリカの18歳から29歳の失業率(全人口の失業率を見た時の倍の数字)

250億ドル

若者の失業によって未回収になっている税金や政府からの援助金の額

1/3

ブルッキングス研究所による、2020年までに4年生の大学の学位が必要な仕事の割合。2/3以上の仕事は高卒に多少の教育とトレーニングをすればできる仕事

1対441

マサチューセッツ州でのガイダンスカウンセラー(注)と学生の割合。推奨されている割合の倍以上の学生を一人のカウンセラーが受け持っている。

350

職業訓練制度を取入れているドイツの産業数。企業は安い賃金で労働者を得て見習い期間が終わればいい人材をそのまま保持する、もしくはよく教育された人材を労働市場に送りだす(この制度に税金は投入されない)

8%

ドイツの若者の失業率。ちなみにEU全体での若者(15〜24歳)の失業率の平均は23%

512%

サウスキャロライナ州でのヘルスケア、エネルギー、観光分野での州がイニシアティブをとって2007年以来行っている見習い制度への参加者の伸び率

2/3

スイスで職業訓練制度を行っている若者の割合。この後に更に、教育を重ねて、学士をとらなくてもビジネススクールや、大学院にいく事も可能。

***

教育と仕事のミスマッチが、少なくなれば失業率も減るだろう、ということなのですが、高卒と大卒の、給料格差がものすごくあるままだと、結局、みんな無理してでも大学に行こうとするでしょう。でももし、それほど違わない額の給料がもらえたら?
職業訓練というのは、日本だと、大工さんとか、車の整備士とか、パン屋さんとか?“職人”というイメージがあるのかもしれませんが、職業訓練では例えば一般事務職、デパートの店員、バイヤーや銀行業務もそうですし、(銀行の受付、クラークはもちろんのこと、トレーダーも大学出てない人達は結構います)学校の先生等といった職業も訓練で学べる職業です。実際、上記にあるように、2/3以上の仕事は高卒に多少のトレーニングをすればできる、というのはこの職業訓練があればできるということでしょう。残りの1/3は例えば医者、獣医、薬学系、研究員、弁護士、管理職、等、専門の高等教育が必要な分野になってきます。実際、その道のエキスパートになって、(場合によっては起業をして)職業によっては大卒よりも稼ぐ人達もいるので、大学をでたから必ずしも、生涯賃金が上とも限らないわけです。

ともかく、様々な矛盾があるために、現状の教育制度を変える時期に入ってきているという事なのだと思います。

(注)ガイダンスカウンセラー:高校で進路相談にのってくれる、カウンセラーで、どういう科目をとったらいいかとか、大学の進路相談を受け持つ

参考記事
失業率を改善させる可能性のある職業訓練制度

失業率を改善させる可能性のある職業訓練制度

12月15日のボストングローブ紙によると、マサチューセッツ州の失業率がいまだ7%をこえているのにも関わらず、特にライフサイエンス、ヘルスケア関連の産業においては、大学の学位があるなしに関係なく、求人数が多く、人材がたりていないということで、労働市場において、需要と供給のバランスがあっていない状態が続いているという、との報告がありました。2008年から比べてみると、ヘルスと教育関連で72700件、求人が増えているのに対して、製造業では42700件求人が減っています。

求人が多いからといって、昨日まで工場で働いていた人達、1万人を新しく教育し直して、看護師として働かせるというのは現実的ではありません。また、子育てでキャリアを中断していた人たちが、いざ、働きはじめようと思っても、ここ何年かで、必要とするスキルが違ったり、コンピュータースキルが変わってしまいそのままでは、仕事がみつからない、という状況になっています。

そして、この需給バランスがあわないのは、地理的要因も考えられるようです。例えば、失業率自体が低い場所で求人が増えるのに、失業率が高い場所では求人がふえないということもあるそうです。ノーベル賞受賞者のMITの経済学者ピーター ダイアモンド氏によると、需給のバランスが合わないということは、いつでもあり得ることですが、大切なのは、小さなエリアでみるのではなく、マサチューセッツ州とかアメリカ経済全体で見た時で、経済が脆弱で求人が十分ではないと、警鐘をならしています。

しかし、実は本当の問題は、大きな会社、特に製造業が見習い制度のような職業訓練やインターンシップ、その他のプログラムによって職業教育に投資しないからだ、というのが新聞の主張でした。

ちなみに、ヨーロッパで経済が非常に上手くまわっているスイスにおける、失業率は3%ほどになるのですが、今、高い失業率に悩む各国がなぜ失業率が軒並み高い、ヨーロッパの中であの小国が、上手くいっているのか、その秘密を探りにきているようです。

理由の一つとして、その教育システムが大きな役割を果たしているようです。大学入学の条件である、高校卒業試験に受かる生徒は約19%。要するに、5人に1人しか大学にはいかない、では他の人は何をしているかというと、15歳くらいから職業訓練に入ります。15歳には自分はどういう道に進みたいのか、ある程度の目安をつけておく必要がでてきますが、15歳から18歳まで、職業訓練に入り、その間、自分の契約した職場で働きながら、学校にも通い勉強もしていきます。そして18歳で卒業すると、一応、その仕事のプロとして認められるのです。(もちろん、この時点でやっぱり自分は大学にいきたいと思えば、また勉強して高校卒業試験をうけることもできます)そして、初めて、今度はプロとして、本格的に労働市場に参入します。

この制度の特徴は、当然、景気のいい産業は沢山の学生を受け入れ、必要な人材を作っていきますし、衰退している産業は、新しい人材を育成しにくいということで、かなり、経済市場に敏感に反応する点です。景気がある程度悪くなると、この職業訓練をサポートしてくれる、企業が減る傾向にはあるのですが、それでも、産業と学校が強く結びついて、将来の為の人材投資という位置付けで、若者を支援しています。又、その教育のなかでは当然、将来例えばパン屋として、独立したり、起業したりするかもしれないことをふまえた教育もなされていきます。18才で卒業したのちも、また、必要に応じて、教育をうけて、スキルアップやキャリアチェンジをする道もあります。

この制度、明かに企業にとってもローコストになります。市場に入ってくる若者達はすでに、高等教育か、職業訓練をうけているので、企業で高い給与を払って人的訓練をする必要がないのです。 日本の終身雇用のように、企業が時間をかけて教育してくれればいいのですが、転職が増え会社もスキルのすでにある人を優先的にいれるとなると、スキルのない若者の失業率があがるという事態になってしまいます。この制度、日本のニート問題も解決してくれそうです。

ドイツ(大学進学率がのびていますが)、オーストリアもこのシステムを取り入れおり、このシステムが上手く機能している国では失業率が低いといえるようです。