大学での学習結果を評価する新しいフレームワーク

大学の卒業式の時期になりました。教育機関に携わる方々は様々な式典に出席される機会が多いのですが、前ノースイースタン大学の学長であり、マサチューセッツ州の高等教育のコミッショナーであるリチャード・フリーランド氏が ”大学にいく価値があるのか”、という質問に答える為に、大学側が新たな試みを始めた話がありました。(ボストングローブ5月9日)

沢山の卒業式に今まで参加し、卒業証書を渡すという名誉ある役目をしてきたフリーランド氏が思うのは、本当にこれらの大学生が何を学んで、何ができるようになったのかということがわかっているのだろうか?ということでした。そして、それをはかる信頼できる方法がないということに気ずきます。

現在のように多数の大学があるようになると、どの学位が本当は何を意味するのかということが明確にわからなくなっているのです。グローバル経済において米国の雇用者が直面している競争上の課題や上昇している大学費用を払う家族の葛藤により、ますます、卒業生がどのようなスキルを身につけているのか、ということを具体的に説明する必要を求められています。

オバマ政権の提案している大学の評価システムはこれまで卒業率、大学のコストに関する情報提供が中心で、学生の学習成果を測定したり、報告することを大学に要求しませんでした。近年のクロニクルオブハイヤーエジュケーションのリポートでは、多くの大学は標準テストに基づいた評価システムを利用しなくなっているそうで、理由はそれらのテストでは限られた価値のデータしかえられず、教えることの質を改善するにはほとんど役にたたないからだとみています。

明らかに、学生の知的能力を証明する新しいメカニズムが必要です。共通の判定基準がなければ、プログラムも改善できないし、将来の就職の為や市民活動に従事していくために準備もできません。

そこでマサチューセッツ州の大学は全米の学生の学習結果を評価するフレームワークを作ることにしました。このために全米から数百人の教員を巻き込み、プロジェクトを始めました。このプロジェクトのゴールは、よりよい評価システムと学生間の人種、民族、所得の差からくる成果のギャップを縮めることで学生の学習レベルが高くなるようにすることです。そこで試験的に学生の論文や宿題等を評価するモデルを開発しました。

このパイロットプログラムは7つのコミュニティーカレッジや、州立大学から数百の学生の論文、実験レポート、宿題等が幅広い分野から集められ、記述によるコミュニケーション、クリティカルシンキング、量的リテラシーの3分野に関して数十人の教員が評価しました。

このいわゆるマサチューセッツモデルは、標準テスト以外で全米で初めての学生を評価するシステムになります。そして、最近この他に8州参加することになりました。
大学にいく価値があるのか、という質問に対して、コスト計算の視点からでなく、卒業生が本当に競争世界にはいっていけ、世界に貢献できるのかという点を証明するために行う評価システムを目指しています。

参考記事:
文系大学での勉強って役に立たない?

大学にいくことだけが選択肢なのか?

大学をでたほうが、生涯賃金が高くなるとわかっていても、アメリカの大学の費用がこれだけ高いと、学費を払う親達も大学の意味というものを改めて考えさせられているようです。ここ最近、高等教育やその学費に関する様々な切り口の新聞記事が増えています。オンラインで学位がとれるコースも多様化しています(余談ですが、バークリー音楽院もこの秋から学士号がとれるオンラインコースを提供することになりました。)高等教育というものが、”ビジネス”になってしまっているということを多くの人が感じています。大学をでたほうがリターンがいいといってもそれだけが選択肢なのでしょうか。一方、若者の失業率は高いのに、企業では十分なスキルのある人材を確保できないというギャップも生じています。
週末の新聞は高等教育に関する特集で、(ボストングローブ5月11日)面白い数字が並んでいました。

69%

必要なスキルをもったスタッフを雇うことが難しいといっているマサチーセッツ州の雇用者の割合

15.8%

アメリカの18歳から29歳の失業率(全人口の失業率を見た時の倍の数字)

250億ドル

若者の失業によって未回収になっている税金や政府からの援助金の額

1/3

ブルッキングス研究所による、2020年までに4年生の大学の学位が必要な仕事の割合。2/3以上の仕事は高卒に多少の教育とトレーニングをすればできる仕事

1対441

マサチューセッツ州でのガイダンスカウンセラー(注)と学生の割合。推奨されている割合の倍以上の学生を一人のカウンセラーが受け持っている。

350

職業訓練制度を取入れているドイツの産業数。企業は安い賃金で労働者を得て見習い期間が終わればいい人材をそのまま保持する、もしくはよく教育された人材を労働市場に送りだす(この制度に税金は投入されない)

8%

ドイツの若者の失業率。ちなみにEU全体での若者(15〜24歳)の失業率の平均は23%

512%

サウスキャロライナ州でのヘルスケア、エネルギー、観光分野での州がイニシアティブをとって2007年以来行っている見習い制度への参加者の伸び率

2/3

スイスで職業訓練制度を行っている若者の割合。この後に更に、教育を重ねて、学士をとらなくてもビジネススクールや、大学院にいく事も可能。

***

教育と仕事のミスマッチが、少なくなれば失業率も減るだろう、ということなのですが、高卒と大卒の、給料格差がものすごくあるままだと、結局、みんな無理してでも大学に行こうとするでしょう。でももし、それほど違わない額の給料がもらえたら?
職業訓練というのは、日本だと、大工さんとか、車の整備士とか、パン屋さんとか?“職人”というイメージがあるのかもしれませんが、職業訓練では例えば一般事務職、デパートの店員、バイヤーや銀行業務もそうですし、(銀行の受付、クラークはもちろんのこと、トレーダーも大学出てない人達は結構います)学校の先生等といった職業も訓練で学べる職業です。実際、上記にあるように、2/3以上の仕事は高卒に多少のトレーニングをすればできる、というのはこの職業訓練があればできるということでしょう。残りの1/3は例えば医者、獣医、薬学系、研究員、弁護士、管理職、等、専門の高等教育が必要な分野になってきます。実際、その道のエキスパートになって、(場合によっては起業をして)職業によっては大卒よりも稼ぐ人達もいるので、大学をでたから必ずしも、生涯賃金が上とも限らないわけです。

ともかく、様々な矛盾があるために、現状の教育制度を変える時期に入ってきているという事なのだと思います。

(注)ガイダンスカウンセラー:高校で進路相談にのってくれる、カウンセラーで、どういう科目をとったらいいかとか、大学の進路相談を受け持つ

参考記事
失業率を改善させる可能性のある職業訓練制度

文系大学での勉強って役に立たない?

大学の勉強が役に立たない、という意見をききます。大学どころか高校の数学や科学でさえも、役に立たないという事を言う人達もいます。自分もそうでしたが、勉強って実は大人になってからのほうが、事の本質がわかっているぶん、はかどるような気がします。しかし、多くの人が、”若い時に、もっとちゃんとやっておけばよかったな” と思うものです。自分も今になって思うのは大学という場所を最大限有効活用してこなかったのでは、ということです。
そこで、少なくとも文系の大学での勉強が社会に出た時にどうしたらいかせるのか、ということを考えてみたいと思います。

大学の勉強は簡単に大きく分けると2つになるでしょう。
1 専門の基礎的知識をえる。

例えば簿記、会計、マーケティング等にはそれぞれルールやセオリーがあり、法律の解釈の仕方にも原則があります。それらは言語と同じように、考えてわかることではなく知っているか、否か、という事であります。現実社会ではアレンジをしたり,実際の使い方は違っていたりするケースもありますが、学校では原則ということを学びます。

2 原則や専門知識を使って、正解のない(わからない)質問に対して、自分なりの答えを導きだす。

高校生のレベルではまず自分の意見をいってみよう、ということから始まり、大学では簡単に言えば、自分の意見を相手に納得してもらったり、自分の立場を理解してもらう方法を学びます。その時に、自分の説明に関する、根拠が必要になってきて、それが統計であったり、データであったり, 過去の文献だったりするわけです。正解が必ずしもない質問に対して、どうやって答えを導くかということをゼミや論文を書くことで訓練します。

問題提起や目的(目標)がはっきりしている場合、そこにいくまでに何が必要で、どうやってそこに到達するのかという道筋を自分で組み立てていく力、問題解決能力というのが養われるべきなのですが、日本ではそこの教育が足りていない場合が多いのではないでしょうか。
しかし、この部分が、まさに実社会で必要なスキルです。

ここ数年、ヨーロッパや、アメリカのインターンシップ学生を多くみてきたのですが、ヨーロッパの学生は(得に理系の学生は顕著ですが、文系の学生も)問題解決能力が高い学生が多いように思います。それは自主的に、勉強していかないと大学を卒業できないという背景も大きいこと、又企業も即戦力になる人材を求めているからのように思います。(この点、アメリカ人にいわせると、ヨーロッパの大学は面倒見が悪い、ということになりますが)

一方、日本の大学の勉強は役に立たないといわれてしまうには2つの原因があるのかな、と。一つは大学サイドの問題でこの学校のこの学部をでたら何ができるようになるのか、何が始められるようになるのか、どんな可能性があるのか等、ということが明確でない場合。(その点、専門学校は目的が絞られているのでその辺りの消化不良というのは起こりにくい。)

もう一つは学生サイドの問題で、大学(院)で誰かに何か(答え)を教えてもらおう、というスタンスできた場合。この場合、知識は習得するかもしれませんが、それを応用する力を養うことができません。なので、社会にでても、外に答えを求め続けるということになると思います。ところが実社会には正解というのは必ずしもなく、自分の関わりのある利害関係者が(それが顧客かもしれませんし、同僚や上司かもしれませんし、もしくは自分自身が)納得するような回答をだせるか、ということが重要になってきます。

本来大学は自分の頭で考えるという事を訓練する場だと思われます。目的意識をもって大学に入ると、大学での勉強も違った意味をもつことになるのではないでしょうか。
文系の勉強も、あっちの論文、こっちの論文をつなぎあわせて、切り貼りするだけでなく、そこから自分なりの理論(ストーリー)をうちたてることができればクリエイティブなものに十分なり得ると思うのですが。。。

関連記事:
OECDの学習到達度調査 PISA 2012からわかること

ドイツの会社が注目するマサチューセッツ州の製造業

去年から、マサチューセッツ州での製造業への回帰に関する新聞記事が時々目についています。アジアに製造業の拠点が移ってから、スキルのある労働者の育成ができず、製造業が戻ってきても(きたくても)労働者がいないというギャップを埋める為に、ドイツの会社ジーメンスが工業学校のような職業訓練をする学校にソフトウエアを購入するために6億6千万ドルを寄付したという話がありました。(ボストングローブ4月16日)

製造業の労働者といっても、簡単な組み立てをするわけではなく、精密機械であったり、飛行機であったりと、主にハイテク関連の産業の工場で働く労働者にも高いITスキルが求められています。ところがこのような、職業訓練学校は、最近では、予算もたりなくソフトウエア等を購入することができません。
マサチューセッツ州の製造業は他のセクターを引き離し州のGDPの13%にもなっています。ところが、若者は製造業はもう将来がないと思ってしまっており、教育もハイテクコンピューターを使って、製造することに関わる人達の為の教育に投資していません。

しかし、それを違う目でみているのがドイツのジーメンスです。90年代からジーメンスは世界中の学校にソフトウエアを提供することをしてきました。製品のライフサイクルマネージメントのテクノロジーを、ダイソンの掃除機やNASAの火星探査機、その他何千もの会社が製品をデザインして製造するのに使っています。2年前から、ジーメンスはマサチューセッツ州の製造業に投資を始めています。このエリアの教育に注目し、ソフトウエアだけでなく、コンピューターラボや、先生達にも教育をします。

製造業では次の10年で高齢化によって10万人ほどのポジションがあくといわれており、平均年収も7万5千ドルほどの仕事になりますが、明らかにスキルのある人材を確保できていないのが現状です。問題は、企業はこの州は研究開発が得意で知的労働のエリアであり、製造業はあまり得意ではないし、コストが高いと思っていることです。
しかし、この問題は雇用を作りだすということだけでなく、イノベイティブでいるということにとって重要な問題です。例えば、アジア、得に韓国のように製品を作る過程において、デザインをよく学んできている国は、今では電化製品のデザインではリーダー的存在になっています。

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ドイツは職業訓練制を取入れている国だけあっていわゆる、工業専門学校の位置付けがアメリカや日本とは違います。戦後、日本はアメリカの教育システムに倣ったわけで、大学にいくことが一番いい、という流れができてしまっていますが、”もの作り国家” というのであれば、もの作りの”教育”の部分を本来大事にするべきのような気がしますね。

それにしても、その州の産業を担う分野の教育機関に外資が入ってくるというのは、(しかも高校レベルで)かなり大胆な感じがします。アメリカのこういう柔軟性がアメリカ経済を前進させることを担っている一因でもあるのではないでしょうか。産業と教育をつなげていく事が、失業率を下げる可能性があることにアメリカ人も気ずき始めたようです。

関連記事:
失業率を改善させる可能性のある職業訓練制度

ユニクロのボストン進出

ユニクロがボストンに進出することになりました。
この夏から来年にかけてボストン界隈に6店舗続けて出店します。
イメージ的にはGAPのような感じがアメリカ人にはするようですが、GAPの服に機能を追加したような感じになるのでしょうか。(ボストングローブ5月7日)

ユニクロアメリカのCEO、ラリーメイヤー氏はボストンのノースイースタン大学を出ています。彼はボストンの人達はニューヨークのファッションを追随しているので、ユニクロはボストンでも認知度のあるブランドであり、その商品はここの気候にもボストンのスタイルにもマッチしているととらえています。

彼はユニクロは1990年代のギャップのような感じで男性、女性、子供達にも広く着られるブランドという認識をしています。質のいいTシャツやパンツ、ジャケット、セーター類が9.90ドルから39.90ドルまで取り揃えてあります。

ユニクロの安いイメージが、H&Mやザラ、Forever 21のようなファストファンションと同じカテゴリーに分類されるようですが、ユニクロ自体は安価なその場しのぎのファションを追求しているわけではなく、もっと素材そのものに焦点をあて、寒い時には暖かく過ごせるように、また暑い時にはそれなりに快適にすごせるような機能があるものを品揃え、同素材のものを同色で大量生産することで、値段をおさえることができています。

ユニクロは1984年にはじめの店を広島にオープンしてから、様々なデザイナー達とパートナーになりながら16の国で1300店舗展開してきました。
アメリカではカリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージ、コネティカット、において20店舗あります。
ボストンでの出店はアメリカでの積極進出計画の一部です。これから数年間に全米で100のユニクロショップを展開する予定で、2020年までにアメリカでの売り上げを増やす予定だそうです。

ユニクロの世界展開には安価な労働者を使っての労働問題、それからサイズの問題(アメリカ人には小さすぎるとの指摘)もありますが、サイズはアメリカ人仕様に変えているそうです。

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ユニクロの、基本的なアイテムって、ファッションにこだわる人が、主役として着る服ではないですが、名脇役になる、というか、主役を目立たせる為に必要な小物、ベースみたいな、ものだと思います。高機能がついた下着とか、服って結構値段がそれなりにするものなのですが、機能があって、値段が安い、あとは色の選択肢があるということで、ファッション性を求めると苦しいかもしれませんが、ボストンのような、どちらかというとアカデミックで、質を求める人達が多い町では、受け入れられる可能性が高いように思います。アジア人も多いですし。私個人的にはうれしい話ですが、アメリカ人仕様の大きさとなると、結局日本からもっていくことになってしまうのでしょうか。。。