アクセラレータとインキュベーションの違い ーボストンの場合ー

インキュベーションとアクセラレータ、実際スタートアップがお世話になるであろう確率が高い2つの用語に関してそしてボストンの場合の特徴に関して考えてみたいと思います。

アクセラレーターは大抵90日から4ヶ月程度の間集中的に行われるプログラムを運用します。そして、大抵、シードマネーのようなものが提供され、それに引き換え、3〜8%程度の会社の株式を要求されます。アクセラレータープログラムは大きな資本を調達できるようにし、会社の規模と価値を大きくすることが目的とされます。そのためメンターによる指導、ネットワーキング、どうやって資金調達をしていくか、ということに関して様々なアプローチから学ぶ機会があります。テックスターズやYコンビネータなどが有名ですが、プログラムに参加できる確率は1%程度だといわれれています。

一方、ボストンにある一番有名なアクセラレーターはマスチャレンジになると思いますが、マスチャレンジは、非営利団体です。プログラムに参加してる企業との資本関係はありません。参加社は株式を譲渡する必要もなく、そのかわりといってはなんですが、シードマネーももらえません。しかし、4ヶ月後のファイナルコンペでは、総額2億円近くの賞金が20社近くに分配されることになります。今年プログラムに参加したのは128社そのうち賞金をもらったのは16社,
ということは賞金がもらえる確率12.5%ですね。しかしプログラムに入れる確率が8−10%。結局、賞金をもらうまでの確率はテックスターズ等とあまりかわらないかもしれませんが、プログラムに入るだけでは、基本的にコストがかからない(アプリケーション費用とか宿泊費や食費はかかりますが。。。)ですし、その上ネットワーキングが広がることで、人材獲得や販売チャンネル、資金調達に関するノウハウ等を一気に学べます。場合によっては参加している他社と合併するかもしれません。ベンチャーキャピタルが運営するような少数先鋭のプログラムと違い、成功者をたくさん作り、社会還元を重視したプログラムといえると思います。

インキュベーション施設というと色々なパターンがあるのですが、一般的にはスペースを借りる際に安くスペースを借りることができるかわりに、持ち株の数パーセントを譲渡する、といったことが行われる事が多いようです。(株式譲渡をうけないところもあります)
インキュベータはメンターによって指導される期間が1年以上と長く(メンターがつかない場合もある)会社が成功するという以外に明確なゴールは得にない場合が多いようです。場合によってはアクセラレータプログラムに合格することが目的になっていることもあるそう。資金が大学の補助金であったり、公共(国や地方団体)の資金が補助に出ている場合、家賃が安くなっています。

このブログでもしばしば取り上げるCICですが、世界で一番スタートアップが集積していると言われているCICでは入居社へのメンター制度はなく資本関係もないことから、CICは自社をインキュベータとはみなしていません。しかし、スターアップが集まるコミュニティーを作ることで、そこにベンチャーキャピタルが集まり、大企業が集まり、メンターその他、スタートアップを支援するような人、企業が集まりコミュニティー全体がインキュベータの役割をしています。

さて、マスチャレンジとCICの2つの施設に共通していることは、1日中(もしくは数日にわたる)学校のような受動的なプログラムがあって決まった教育をされていたり、メンターがついて誰かがノウハウをきちっと教えてくれるものではないということです。どちらの施設も、場の提供及び、ネットワーキング、ピッチイベントのような目的をもったイベントを行いますが、何が自分達の問題点で何が自分達に必要もしくは、不必要かということは自身で探っていかなくてはなりません。そしてそれを、閉鎖的な環境ではなく、オープンにそして互いに助け合いながらすることで、エコシステムという大きな相乗効果を出そうとしています。

アメリカンドリームも、エコシステムとして上手く機能すると、格差社会が解消できるような気がします。

国も応援する、2015マスチャレンジ賞

さて、今年のマスチャレンジアワードは、政治色が若干強いものになりました。
マサチューセッツ州のベイカー知事に、ボストンのウォルシュ市長、来年はイスラエル、メキシコでマスチャレンジがオープンするので、各国の代表者、特にメキシコは国をあげてイノベーションエコノミーを後押ししています。どこの国でもイノベーションを牽引する産業はウェルカムという感じでしょうか。

2010年に始まったマスチャンレジのアクセラレータプログラムで現在までに835のスタートアップが6500以上雇用を生み出し、11億ドル(8億円ほど)資金調達をしました。今年は2250社の申し込みが世界60カ国からありました。他のアクセラレータープログラムやインキュベーターとちがってマスチャレンジはノンプロフィットです。スタートアップの株式を要求したり、他の金銭的な支払いというのが生じないところもスタートアップにとってはとてもいい環境でありますし、他の利害関係者にとって、ニュートラルな立場でいられます。

今年で6年目になりますが、増え続けるのは参加社だけではなくこのアクセラレータープログラムの授賞式をみる人たちで、今年は1700人、しかも席もキャンセル待ちでした。ファイナリストとしては26社が選ばれ、壇上でピッチをするわけですが、ここに残った26社はどれもこれから成功する確率が大変高いと言われています。そういった意味でも、投資家にとっても非常におもしろいこの賞(ショー?)であります。その中で16社がこの日総額1.3億円程度の資金を手にしたわけですが、まあ少ないという人もいますがあくまでも、返す必要のないお金をこれだけもらえるというのはいいですよね。。

賞が発表される前に円板型のピアノで演奏するブロキット・パーソンズ氏

賞が発表される前に円板型のピアノで演奏するブロキット・パーソンズ氏

ショー的要素が強い受賞式ですが、毎年世界をかえる豊富なアイデアの数々には圧倒されます。
ファンタジーフットボール(ソーシャルゲーム)のDraft King は2015年にすでに10億ドルを集めていますし、おなじみの電気ショックで悪習慣を直す、Pavlok 虫をチップスにした SIX FOODS  と様々な分野から選ばれていましたが、その中でも若干バイオ関連がやはり多かったかな?との感じもうけました。

電気ショックで悪習慣を治すパブロック、腕時計タイプ。

電気ショックで悪習慣を治すパブロック、腕時計タイプ。


個人的に面白いと思ったのは骨をくっつけるノリを開発したLaunchPad Medical骨を接着するのは非常に難しいということで、長く続く痛みを抱える患者をみていた医師が患者の負担を減らすために始めた会社です。これを使用することで、数分で骨がつき、痛みからも早く解放されるというものですが、バイオ関連の専門家の目からみても非常に有望な会社のようです。

大学での起業教育がトレンディー、ボストンカレッジも創設するアントレセンター

ボストンは大学と起業教育の結びつきが強いところです。
アントレプレナー教育では有名なバブソンカレッジまた、MITのマーティントラストセンターは数十年の歴史がありますが、近年ではノースイースタン大学、ハーバード大学、タフツ大学と大学内に起業を促進するセンターが続々とできています。そんななか、この夏、ボストンカレッジでもアントレセンターを作るという発表がありました。
http://www.bc.edu/schools/csom/research/sheacenter.html

(*ちなみにボストン大学とボストンカレッジは全く別の大学です)

ボストンカレッジといえば、コンサバ、カトリック系、リベラルアーツ、アカデミック色が濃いというイメージですが、とうとうここでも起業教育を大学にとりいれる動きがでてきましたね。
背景には、近年特にスタートアップが増えているということがあるのですが、ちなみにオンラインの投資サービスAngelListによるとここ7年間で3000以上のスタートアップがボストン近郊でできたそうです。

起業教育は、机の上だけで、理論武装しても結局自分で動いて、失敗も含め経験してみないと、本当の勉強にはなりません。こういったセンターではそういった機会を大学院(MBAに代表されるような)だけではなく、大学の学部生として学べ、サポートがうけられるというのが特徴です。
本来ビジネスは、”社会の問題を解決する”ものですが、自分が大学で学んだことが、どう社会に役立つのか、起業の種は色んなところに転がっているわけですが、それをどうやって形にしていくのか、起業教育は分野を問わず、求められています。

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タフツ大学が取り組む起業教育

バークリー音楽大学の起業教育

大企業にいても、スタートアップにいても必要な起業家精神

大学の研究室では日々様々なテクノロジーやアイデアが生まれてきます。基礎研究に代表されるように、その研究そのものが商品につながることはなくても、それを使って、他の商品やサービスを作りだすことはできるかもしれません。

さらに一歩進んで、1つ分野の研究から起業するのではなく、分野の全く違う研究同士が連携して、(例えば工業系と医学系)大学発のテクノロジーをどのように、起業につなげていくのか、大学の役割は何かということをアメリカの成功事例をみながら、勉強するというツアーがヨーロッパの大学で組まれました。

分野の違うところで活躍している研究者達は、互いの価値観、使う言語(たとえ同じ、日本語を話していたとしても)が違う為に、時としてプロジェクトを進めるのが難しいといいます。視察後の会談で、結局カルチャーの違いをどう乗り越えるのかという話になりました。

例えば大企業がスタートアップを買収した時にカルチャーがあわないことで、買収や合併はうまくいかないことが多いという話になりましたが、ハーバードビジネススクールの教授も、企業文化の違いを甘くみてはいけないという話をされていました。スタートアップでメンバーが少なく、全員がアントレプレナー気質をもっている場合、このような会社が大会社に売られると、その会社の持っているイノベーション力、スピード力といった価値感がうまく共有できないことが多いのではないかと思います。

どのように大企業の側の人たちにアントレ力(起業家精神力)をつけてもらうのか、ということについて、従業員5000人の会社を一つ作るより、300人〜500人の会社を10個作ったほうがいい、との発言もでました。これは市場の規模も関係してくる話だとは思いますが、会社が小規模の方が、従業員の間での価値観やカルチャーを共有しやすいということはあるのでしょう。

大企業がスタートアップの集まるワーキングスペースにあえて、オフィスをもつのも、彼らと交わる会話の中から受ける影響力を重視したものです。ワーキングスペースを運営している側も、互いの会話から生まれる、何かを大事にしてもらいたいといいます。

私はアントレ力(起業家精神)のある人とは、明日、企業をやめて独立しても自分の能力を生かすことができ、ゼロから1を作り出せる精神的にも自立している人なのでは、と思っています。他社や他の個人とコラボレーションをする、ともに働くということは互いに依存し合うということではなく、自立した人たち(会社)同士が互いの強みをいかし、新しい価値を作りあげるということです。その前提として、大企業で働いていても、スタートアップでも各人が確立したスキルであったり、ブランド力といったものを有して、自発的に動く必要性をここ最近ますます感じます。組織力を上げる為にも個の力の重要性がこれからもっと大事になってくるのではないでしょうか。

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スウォッチの救世主が語る、イノベーションを生み出す力

エルマー・モック氏はエンジニアであり、現在のスウォッチをうみだした共同発明家の一人なのですが、1970年代に日本の安価なクォーツ時計に圧倒され、市場を失い、倒産しかかっていた会社(SMH)に当時の額で約5000万円ほどの投資をさせて、ハイクオリティー、低価格、ハイデザイン、の時計を作り、スイスの時計産業の救世主として君臨した方です。彼は現在、イノベーションコンサルテイング会社 Creaholic 社 http://creaholic.com/ を率いています。この会社はイノベーション工場として、大企業が持っている技術を使って新たなイノベーションを起こすことを手伝ったり、この会社のアイデアからスピンオフした企業もあります。様々な分野の専門家が集まり、本来エンジニアの人でも、消費者目線で多様な価値を生み出すビジネスモデルを作りだしています。
その彼が今週ボストンのノースイースタン大学やニューヨークでも公演をしました。

彼がスウォッチグループの前身である、SMHを救うべく新しい商品の提案をしたのが22歳、潰れそうな会社なのに、高額な機械を購入するように上司に提案したところ、すぐに了承してもらえたといいます。上司に恵まれ、誰にも管理されることなく、チャンスをつかんで、ハイクオリティーで低価格の時計を作ることに専念できたそう。始めにターゲットにしていたのはアフリカ、インド、南アメリカという市場でしたが、あっと言う間に世界に広まりました。イノベーションを起こすためには、創造性が非常に大切だということ。そして創造性は誰もがもっているものです。自分は天才ではないので、自分にとってイノベーションとはフランケンシュタインを作るようなものだと、それはつぎはぎ、何か全く新しいものを創造するというより、あるものをつぎはぎにして新しいものを作っていくという感じだといいます。そして、創造性を最大限に発揮するためには自分が興味があって好きなことをすること。。ただし、ビジネスとして継続させていくためには、お金を回す必要はあります。
金銭的利益を追求してできた商品は、短期的にしか売れない、しかし、利益を考えず商品だけ作っていては全く市場では勝てない。よくきくことですが、彼も、あっていることをしていれば、お金は後からついてくるといっていました。

彼は今の時計業界は1970年代の頃のような、状態にあるのではないかと危惧しています。そのような時代にアップルウォッチのようなものがでてきたのは象徴的です。
コミュニケーションの道具を腕につけるということが市場的には大きなポテンシャルがあると思っています。
スイスの時計会社は、時計をジュエリーやアクセサリーとして売ることに成功してきて、高い利益率を確保してきました。一方、その後、新しいアイデアに投資するのではなく、世界中にショウルームを作ることで、短期的な利益に投資をしていますが、市場規模の大きいスマートウォッチのような市場を見過ごしてしまっているのではとの危惧があります。

常に何かを創造していくためにはいかに、多様なものを組み合わせていけるのか、この点は日本の企業が学べることが多そうです。

参考図書:

スイスの凄い競争力