ハーバードが労力をかけるMOOCsの講座(Harvard X)

ハーバードがMOOCsの講座を作る為に、どれだけ大変なコストと労力をかけているか、という記事がありました。(ボストングローブ5月18日)
ノンプロフィットのedxですが、そのために作っているコースは、一方的に無機質な教室から映し出されるコースだけではなく、思考をこらしたものが多くあります。(ハーバードXが講座を作っていて学生はedXのプラットフォームからログインします)http://harvardx.harvard.edu/
自分が去年友人に誘われて、覗いたコースはScience and Cooking(科学と料理)という公開講座で、edxでも現地でも受けられる講座でしたが、プロのシェフが料理をする際にいかに科学をとりいれているのか、ということを学ぶ講座で、毎回違う、有名シェフがやってきて実際に授業を現地できくには早くいって並ばないと、席が確保できないほどの人気講座でした。

MOOCsの為に、ハーバードは学内制作会社のようなものを立ち上げ、ミニドキュメンタリー、アニメーション、インターラクティブなソフトウェアツールを使用して講座を作っています。
ちょうど今月で2年たつHarvardXは2つのビデオスタジオに30人以上の従業員、フリーランサー(プロデューサー、編集者、ビデオ撮影者、作曲者、アニメーター等)と、テレビ番組の制作現場のようでとても、無償のコースを作るためとは思えないような力のいれようです。今までに30のクラスを作り、60を制作中だそうです。

実際、学部での講義にも宿題としてMOOCsの教材を使い、通常の講義ではディスカッションをするという教授もいるそうです。
オンラインでの教育をどうやってよくしていくか、という議論でなく、教育そのものをどうやってよくしていくか、という視点にたって制作しています。

教授が提案した議題を沢山のスタッフたちで、演出したり、ビデオにしたり、作りこんでいくのですが、沢山の教授たちもプロジェクトをボランティアベースで行っているので、この先フラットフィーにするか、収益の分配という形で還元させていくかを考えているそうです。
一つのコースを作るのに $75,000 から$150,000かかっていますが、神経科学講座のように、誰でも家で実験できるようなキットを売って独自に資金を集めている講座もあります。ゴキブリの足を切ってニューロンの発火音をきく実験は、大人気で、学部の講座にもとりいれられるようになりました。
又、ハムレットの講義では、演出に凝ったりと、教える側の教授も、新しいチャレンジで楽しい反面、コストがかかりすぎているとの批判もあります。

実際、講座をうけるのが無償と言っても証明書をとる場合は費用を支払う必要があるのでそうやって、ちょこちょこと、コストを回収はしているようですが、この先も、何か追加で、10ドル、20ドルの徴収ということは考えているようですね。
彼らが作っているMOOCs、従来の講座のかわりのもの、というより、ハイテクのマルチフェイス教科書だととらえています。だから、その作品は(講義)はドキュメンタリーでありストーリであってなるべく伝統的な講座みたいにならないようにこころがけているそうです。

変化する教育制度のあり方

ここ何日か、高等教育関連の話をいくつか書いているのですが、この10年ほどの間、高等教育の形が各国で変化の様相をみせていて、システム的には外国からの学生が行き来しやすいように、互換性のあるものにかわる方向になり、この先ますますこの傾向が進んでいくのかなという感がありますね。どうしても人の流れがお金の流れるところにいくように、教育もすでに、アメリカよりのものになりつつあるようです。例えば、ドイツが高校を卒業するまで13年制だった教育を12年制にしたり、大学卒の意味が大学院卒だったのに、今は学士がとれるようになったりと変化してます。が、一方、マサチューセッツ州の中でも、職業教育の見直しの話がでるなど、欧州のシステムのいいところも取入れようという動きはあります。
アメリカの教育はオバマ大統領が2020 年までに達成すべき教育目標として、少なくとも 1 年間の高等教育または職業訓練を受け、2020 年までに大学修了率を世界一まで底上げすると言っています。日本の大学も外国人留学生の受け入れを増やしたり、英語入学の学生を取入れたりもしてますね。

今起こっていることは、教育機関の世界レベルでの学生獲得競争ということもありますが、制度上の各国の歩み寄りもあり、教育の世界標準化が進んでいるということでもあるようです。

そういう流れの中で、自分の知っている国の教育システムのいいところを考えてみました。
日本:
日本の基礎教育ってやはりレベル高いと思います。よくシステム化されていて、日本全国での教育格差が諸外国に比べると少ない。なるべく沢山の人に均一な質のいい基礎教育を広くすることに優れています。日本の基礎教育レベルが高いのは塾の御陰というのもあるんでしょうか?あと、意外といいのが専門学校。”食”もそうですが、例えば、エステとか、日本の美容師さんも世界的にも通用するレベルだと思いますけどね。

アメリカ:
イノベーション教育、何もない所から何かを作り出す創造性にたけていますね。学問をお金にかえる力があります。資金、研究、ビジネスの流れがあります。そして個々のレベルにあった選択肢が多く、大変ながらも楽しみながら学ぶということができます。

ドイツ語圏:
優れた職業教育制度があり、産業と教育の結びつきが強く、失業率対策に有効といわれています。

ここからは思いっきり妄想ですが、もし、それぞれの国が得意な部分を担当して学校システムを作るとどうなるか。。。
基礎教育(小学校、中学校)は日本担当
高校前半は、リベラルアーツ的な教養教育(そこまでが義務教育)、後半からはリベラルアーツ的な教養教育を続けて受ける人と、職業訓練(3年間)もしくは専門教育(3〜4年間)に入る人とに別れる(ドイツ語圏担当)
リベラルアーツ教育をうけて卒業した人は、いわゆる大学に進む。大学は、分野によって、アメリカ、もしくはドイツ語圏が担当、大学院の高等専門教育はアメリカ担当
それを上手く日本がシステム化すると、いいとこ取りの教育ができるような気が。。。(笑)
カチカチで、楽しい学校生活は送れないかもしれないので、スポーツ、エンターテイメント部分はアメリカ担当。

注)ちなみに、6•3•4年制の13年制で考えています。現実のドイツ語圏の職業教育は15、6歳から始めますが、この年齢から専門性に入ってしまうと、世の中に対する見識が狭くなる恐れがあるのかなと。(30年前と違って、今は人が最低限しっておいたほうがいいということが増えている、というか違ってきてもいる)のちのち、他の教育を足したとしても、現代社会の中ではもう少し、義務教育の部分も増やしてもいいのかな。ドイツが以前13年制をとっていたのは、アメリカでの教養課程(リベラルアーツ的教育)をドイツの高校でやってしまうからなのです。だからドイツ語圏の大学には一般教養講座はないです。

と、まあ、非現実的な妄想でしたが。。。
何が言いたいかというと、教育の質をあげるということを、沢山の人が考えるということは大事な事であると思うのです。
例えば、個々人の人生でみたら国内で一生過ごし、英語ができなくても、困らない人は沢山いると思います。ただ、国という視点で見ると、日本の現状をみても、いやでも国際社会の中での自国の存在を意識しないわけにはいかず、世界の中の日本であるわけです。国の方向を決めるのは、少数の政治家だと思われますが、実際その政治家を選んでいるのは国民です。国民全体のレベルをあげることはとても大事になってくるわけで、そういう意味でも一部の人だけでなく、多くの人の教育の質をあげることは重要になると思います。

バーテンダーになるのに化学の学位は必要か?

ウェズリアンカレッジはアイビーリーグの教育を少人数で行っているリベラルアーツカレッジの一つでリトルアイビーの名門です。
このリベラルアーツ教育、日本語では教養学部の教育とか、”教養”という意味で訳されますが、基礎的な教養を磨くだけでなく、物の考え方を養う、考え方の基礎を学ぶというように理解したほうがいいと思います。アメリカの名門リベラルアーツカレッジは少人数でエリート養成校のようで、卒業後は専門大学院にいく人が多いと言われています。
学長のマイケル・ロス氏はMOOCs等もいれると昨年15万人以上に教えてきたそうなのですが、リベラルアーツの重要性を説いてます。(ボストングローブ5月9日)

この30年間に学生の期待するものも変わってきました。学部生は消費者のように行動し、いい履歴書を作ることを重要視しています。両親は、教育がすぐに就職で、又職場で役立つことを望みます。そして、競争社会では広い見識を求められるリベラルアーツ教育は贅沢なものととらえられ始めています。

近年、一部の人々の間にはリベラルアーツのような広範囲の教育は必要ないという議論がおこり、実際 ”いいマティー二を作るのに、化学の学位がいるのだろうか?” というような議論があり、リベラルアーツに否定的な人たちは、自分達は教育の恩恵を受けてきたのにもかかわらず、直接お金にならないものを ”無駄” な教育とみなします。

しかし、企業側はリベラルアーツ教育の重要性を認識しています。アメリカ大学連盟の調査によると、80%の雇用者が専攻に関わらずリベラルアーツとサイエンスの基礎を勉強するべきだ、と述べています。
だから(この学長は)MOOCsでも学生を”集団”としてとらえず、個人授業のような感じで学びに情熱を注いでもらい、思慮深く、クリティカルシンキングのスキルを習得してもらい、好奇心と熱意をもって学び続けてほしいのです。

アメリカ建国以来、教育は個人の自由を手に入れる為に必要なものであり、個々のポテンシャルを引き出す事で社会に貢献してきました。
アメリカにおける高等教育の変化のペースはかつてないほど早くなっています、不平等をへらし、経済的にも活性化させたいなら実用的でリベラルな教育が必要です。

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リベラルアーツカレッジは一般的に学生数が少なく、一人の教授がみる学生数が少ないこともあってか、学費が高いので、余計に贅沢ととらえられるのかもしれません。しかし、得に近年、グローバルな経営を求められるマネージャー等に広範囲な教養の必要性をとく話もあり、あらためてリベラルアーツというものが見直されている側面もあるようです。先日の記事でもかいた、自分の頭で考える、ということを徹底的にきたえられるのがリベラルアーツカレッジともいえそうです。(私のリベラルアーツカレッジに行く人のイメージは、学ぶということが本質的に好きな人というイメージがありますが。。。)

確かにいいバーテンダーになる為には化学の学位は必ずしもいらないでしょうが、勉強することで自分の可能性を広げてくれるということはありますよね。心理学をもし勉強していたら、もしかして、彼と話したくて客が集まるかもしれないし、ビジネスを勉強したらバーを経営する側に回るかもしれない。

どこまで、どの教育が必要かといえば、正直、人によって違う、としかいえないのかなあ、という気がします。だから本当は一番大切なのは自分を知る事ではないでしょうかね。自分を知るためにリベラルアーツ大学で学ぶ人もいるでしょうし、自分を知っているから、他の選択をする人もいるでしょう。(自分を知るって年齢は関係ないんですよね。私は個人的にはそっちのほうに興味がありますが。。。)

大学での学習結果を評価する新しいフレームワーク

大学の卒業式の時期になりました。教育機関に携わる方々は様々な式典に出席される機会が多いのですが、前ノースイースタン大学の学長であり、マサチューセッツ州の高等教育のコミッショナーであるリチャード・フリーランド氏が ”大学にいく価値があるのか”、という質問に答える為に、大学側が新たな試みを始めた話がありました。(ボストングローブ5月9日)

沢山の卒業式に今まで参加し、卒業証書を渡すという名誉ある役目をしてきたフリーランド氏が思うのは、本当にこれらの大学生が何を学んで、何ができるようになったのかということがわかっているのだろうか?ということでした。そして、それをはかる信頼できる方法がないということに気ずきます。

現在のように多数の大学があるようになると、どの学位が本当は何を意味するのかということが明確にわからなくなっているのです。グローバル経済において米国の雇用者が直面している競争上の課題や上昇している大学費用を払う家族の葛藤により、ますます、卒業生がどのようなスキルを身につけているのか、ということを具体的に説明する必要を求められています。

オバマ政権の提案している大学の評価システムはこれまで卒業率、大学のコストに関する情報提供が中心で、学生の学習成果を測定したり、報告することを大学に要求しませんでした。近年のクロニクルオブハイヤーエジュケーションのリポートでは、多くの大学は標準テストに基づいた評価システムを利用しなくなっているそうで、理由はそれらのテストでは限られた価値のデータしかえられず、教えることの質を改善するにはほとんど役にたたないからだとみています。

明らかに、学生の知的能力を証明する新しいメカニズムが必要です。共通の判定基準がなければ、プログラムも改善できないし、将来の就職の為や市民活動に従事していくために準備もできません。

そこでマサチューセッツ州の大学は全米の学生の学習結果を評価するフレームワークを作ることにしました。このために全米から数百人の教員を巻き込み、プロジェクトを始めました。このプロジェクトのゴールは、よりよい評価システムと学生間の人種、民族、所得の差からくる成果のギャップを縮めることで学生の学習レベルが高くなるようにすることです。そこで試験的に学生の論文や宿題等を評価するモデルを開発しました。

このパイロットプログラムは7つのコミュニティーカレッジや、州立大学から数百の学生の論文、実験レポート、宿題等が幅広い分野から集められ、記述によるコミュニケーション、クリティカルシンキング、量的リテラシーの3分野に関して数十人の教員が評価しました。

このいわゆるマサチューセッツモデルは、標準テスト以外で全米で初めての学生を評価するシステムになります。そして、最近この他に8州参加することになりました。
大学にいく価値があるのか、という質問に対して、コスト計算の視点からでなく、卒業生が本当に競争世界にはいっていけ、世界に貢献できるのかという点を証明するために行う評価システムを目指しています。

参考記事:
文系大学での勉強って役に立たない?

大学にいくことだけが選択肢なのか?

大学をでたほうが、生涯賃金が高くなるとわかっていても、アメリカの大学の費用がこれだけ高いと、学費を払う親達も大学の意味というものを改めて考えさせられているようです。ここ最近、高等教育やその学費に関する様々な切り口の新聞記事が増えています。オンラインで学位がとれるコースも多様化しています(余談ですが、バークリー音楽院もこの秋から学士号がとれるオンラインコースを提供することになりました。)高等教育というものが、”ビジネス”になってしまっているということを多くの人が感じています。大学をでたほうがリターンがいいといってもそれだけが選択肢なのでしょうか。一方、若者の失業率は高いのに、企業では十分なスキルのある人材を確保できないというギャップも生じています。
週末の新聞は高等教育に関する特集で、(ボストングローブ5月11日)面白い数字が並んでいました。

69%

必要なスキルをもったスタッフを雇うことが難しいといっているマサチーセッツ州の雇用者の割合

15.8%

アメリカの18歳から29歳の失業率(全人口の失業率を見た時の倍の数字)

250億ドル

若者の失業によって未回収になっている税金や政府からの援助金の額

1/3

ブルッキングス研究所による、2020年までに4年生の大学の学位が必要な仕事の割合。2/3以上の仕事は高卒に多少の教育とトレーニングをすればできる仕事

1対441

マサチューセッツ州でのガイダンスカウンセラー(注)と学生の割合。推奨されている割合の倍以上の学生を一人のカウンセラーが受け持っている。

350

職業訓練制度を取入れているドイツの産業数。企業は安い賃金で労働者を得て見習い期間が終わればいい人材をそのまま保持する、もしくはよく教育された人材を労働市場に送りだす(この制度に税金は投入されない)

8%

ドイツの若者の失業率。ちなみにEU全体での若者(15〜24歳)の失業率の平均は23%

512%

サウスキャロライナ州でのヘルスケア、エネルギー、観光分野での州がイニシアティブをとって2007年以来行っている見習い制度への参加者の伸び率

2/3

スイスで職業訓練制度を行っている若者の割合。この後に更に、教育を重ねて、学士をとらなくてもビジネススクールや、大学院にいく事も可能。

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教育と仕事のミスマッチが、少なくなれば失業率も減るだろう、ということなのですが、高卒と大卒の、給料格差がものすごくあるままだと、結局、みんな無理してでも大学に行こうとするでしょう。でももし、それほど違わない額の給料がもらえたら?
職業訓練というのは、日本だと、大工さんとか、車の整備士とか、パン屋さんとか?“職人”というイメージがあるのかもしれませんが、職業訓練では例えば一般事務職、デパートの店員、バイヤーや銀行業務もそうですし、(銀行の受付、クラークはもちろんのこと、トレーダーも大学出てない人達は結構います)学校の先生等といった職業も訓練で学べる職業です。実際、上記にあるように、2/3以上の仕事は高卒に多少のトレーニングをすればできる、というのはこの職業訓練があればできるということでしょう。残りの1/3は例えば医者、獣医、薬学系、研究員、弁護士、管理職、等、専門の高等教育が必要な分野になってきます。実際、その道のエキスパートになって、(場合によっては起業をして)職業によっては大卒よりも稼ぐ人達もいるので、大学をでたから必ずしも、生涯賃金が上とも限らないわけです。

ともかく、様々な矛盾があるために、現状の教育制度を変える時期に入ってきているという事なのだと思います。

(注)ガイダンスカウンセラー:高校で進路相談にのってくれる、カウンセラーで、どういう科目をとったらいいかとか、大学の進路相談を受け持つ

参考記事
失業率を改善させる可能性のある職業訓練制度