バークリー音楽大学の起業教育

ボストン周辺には高等教育機関が多いですが、勉強だけでなく、世界的に有名なバークリー音楽大学があります。
バークリー音楽大学というと”ジャズ”というイメージが私にはあったのですが、この大学が設立された背景(1945年設立)は、当時音大というと古典的な音楽を教える場であったのに対し、現代の音楽を教えるところがなかったという理由から、現代音楽を学ぶ場として作られたそうです。そのバークリー音大で、音楽を学んだ学生が、其の能力、ミュージックとテクノロジーをいかに、ビジネスに結びつけるかということを学ぶ起業センターが設立されたという記事をみつけました。(ボストングローブ1月29日)
センターの目的は学生が学校を卒業するときには、自分を市場に売り込む事ができ、契約交渉する能力をつけられ、ビジネスを始められるようにする、ということです。

バークリーの卒業生でもあり、音楽家の為のSonicbidsという会社を立ち上げて、最近15億円ほどで売ったパー二イ氏がこのセンターを率いることになりました。

バークリー音大の学長はYoutubeの出現で演奏家は大手のレーベルに所属しなくても、成功を手にすることができるようになったととらえています。
そこで、ハッカーソン(ソフトウエアをエンジニアやデザイナー等がチームになって制限時間を決めて作るイベント)のように、一日中こもってだれが一番いいyoutubeビデオを作るかのコンペをしたり、MITやブラウン大学のエンジニアの学生とともに共同でミュージックセラピーのハッカーソンも行うことにしました。

大抵の学生は、音楽が好きで、演奏がすき、でもそれでどうやって収入をえるつもりなのかわかっていません。
しかし学長は特に、そういう学生に興味をもってもらいたいのです。彼らはニューヨークにいってメジャーのレーベルとサインをするのかそれとも、もっと自立して、誰かの許可を求める訳でもなく何かを自分で立ち上げていくのか、そういった道があるということを教える為の新たなセンターになる予定です。

子供が、大学進学する際に、何を学ぶかを考えた時、大抵の親は、就職先があるの、とかそれで食べていけるの?ということを考えますが、音大にいくといってもプロの演奏者としてたべていけるのはたぶん、ほんの人握りの人達で残りの人達は教育関連にいったり、普通の企業に就職していき、趣味や副業として音楽を続けていくのかと思います。
例えば、商品を売るという事を考えた時、世の中には必ずしも、すばらしい商品でなくてもよく売れているものもあり、それは商品の質や、性能ということだけが重要なのではなく、プロデュース力やマーケティング力、販売力の重要性を示していて、もし、音大生が自分を、もしくは自分の能力を商品化することが上手くできれば、好きなことを一生やっていける道もできてくるわけです。それを助けるのがこのセンターになるというわけですが、音大にアントレセンターとは、さすがアメリカという感じがします。音楽に芸術性を求めるより、実益を求めている感じがしますね。この流れにのると、芸術大学にもアントレセンターというものが出現しそうです。実際、アート系の事務所で成功されている方も結構いるので、現実的にはあり得る話だと思います。大学も卒業生の就職率を考えた時、どれだけ、大手企業に就職したかだけではなく、卒業20年後くらいにどれだけ、起業、もしくは独立したかの統計をとってみるともしかしたら、その学校に集まる生徒の傾向がわかるかもしれませんね。

クラウドファンディングで資金を集める靴のスタートアップ

ボストンでスタートアップといえば、ほとんどテック関係なのですが、ここ数年のうちに、靴のスタートアップが5社ほど誕生しているという記事が1月28日のボストングローブにありました。実はマサチューセッツ州はコンバースやニューバランスというスポーツ、カジュアルシューズの本拠地であり、19世紀から20世紀にかけて、製造業がアジアにいってしまうまでは靴産業がボストン近郊ではにぎわっていました。ボストンマラソンに、レッドソックス、バスケットチームのセルティクス、レガッタと、スポーツの話題には事欠かない、この州。そこで最近、若者たちが新しいタイプの靴ビジネスを始めています。

山登りにいく人達がはく、防水のちゃんとしたアウトドアスタイルの靴だけど、普段もカジュアルにはける格好のいいものはないものか、という発想のもとに24歳の青年達が2010年に立ち上げた Forsake は始まりました。
靴業界は事業を立ち上げるのに通常お金がとてもかかるのですが、最近たちあげられている靴会社はコンバースやニューバランスのように、売れ筋の靴は作らず、ニッチなマーケティングで、エンボス加工されたボートシューズや、防水加工されたスニーカー、ランニングシューズと同じくらい快適なブーツ等、様々な種類のくつを提供します。

Forsakeは50人の投資家の前でピッチをして、会社をおこすために7人がサポートしてくれましたが、クラウドファンディングだともう少し簡単で2012年に38日間で11万6千ドル(1100万円相当)を1000人から集めたということです。投資家は特にテック産業をサポートしたいので、普通に投資家から資金調達をするのは難しいのですがクラウドファンディングをすることで消費者とも直につながることができるし、彼ら自身が自分の商品の消費者なので顧客のことがよくわかっているとの分析があります。

靴業界は何十万足も売らないと利益がでないビジネスのようです。どこの業界も似たようなものでしょうが、大きい会社のほうが、沢山生産して安くうり、利益をあげることができますが、小さい会社は利益をあげるのが難しいようですね。Forsakeも、デザインをアメリカで行い、生産は海外でしているそうです。

iSlide のように自分で色、文字や柄を選んでプリントすることができるスリッパサンダルもあります。
スリッパ市場の成長はここ数年2桁台だそうでランニング、やバスケットボール用のシューズほど大きな規模に成長するとは思えないようですが、無視するにはもったいない、iSlideという会社を起こしたキットレッジ氏はいいます。カスタムメイドのスリッパの価格は50ドルほどです。
Boston Boot Co. もやはり、キックスタータで25万ドル(2500万円相当)を集めています。
以前はこんなものがほしいと思ったら消費者は会社に連絡をして特別に作ってもらったものですが、これからは自分で作るということができるということらしいです。
最近、ビッグブランドでも靴に限らず自分用にカスタマイズできるブランドがふえています。名前をいれたり、色の組み合わせを変えたり、ニューヨークのコンバースでも自分用の靴を店で作ったりできますし。

それにしても、クラウドファンディングのパワーってすごいですね。ネットの世界は短期間にわっと、人の流れが集中するので、ネットの世界で影響力のある人達は、資金集めが意外と簡単なのかもしれません。又クラウドファンディングは直接消費者とつながる事ができるので、マーケティングのリサーチも同時にできる利点があるようです。

Forsake
iSlide
Cape Cod Shoe Supply Co
Boston Boot Co.
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進む大学のイノベーション教育

何十人ものノーベル賞受賞者に数々の発明の手助けをしてきて(例えば、ラジオにレーダー、近代ロボティクス、バイオテクノロジー等)有名卒業生としては、財務長官、イスラエルの首相、宇宙飛行士と数えきれないほどの有名人をかかえるMITが不十分であると感じているものは何でしょう?1月26日のボストングローブには新たな取り組みをし始めたMITの話がありました。

MITは隣にあるハーバード大学だけでなく、スタンフォード大学や世界中での大学競争に直面しているという自覚があります。事実、ハーバードはイノベーションキャンパスとビジネスパークを建設中ですし、シリコンバレーのスタンフォード大学では学生がどんどん起業して、何人も億万長者が生まれています。

一方、MITはつい最近までリサーチと教育の他はイノベーション分野に関しては特に何もしてきませんでした。
そこでコンピュータチップを作っているアナログデバイセズ社の共同創設者ステイタ氏や、Dropboxの共同創始者のヒューストン氏のように成功している有名な卒業生と学校関係者の助言でライフ学長は21世紀における技術革新と起業のリーダーをキャンパスで育てるプログラムを始めました。

アイデアをどうやってビジネスにするのか、というブートキャンプにエンジニアの学生が参加することで、単位がとれることになりました。
Start6と呼ばれるこの2週間半のプログラムでは50人以上の学生が集まり、20のテック企業やベンチャーキャピタルが投資家と契約を交渉することで成功する商品を作ることについて論じます。学校側としては、このような機会を学生に与えて、起業に関して学んでもらいたいと思っています。
学部生や、ポスドクの為にもコースを用意して、起業に必要な知識を養ってほしいという、背景があります。
又、10年前には、アイデアを現実にする機会が限られていましたが、イノベーションの為に新しい建物をたて、学生や教授、講師、卒業生達がみんなで、アイデアを出し合い、インスピレーションを現実のものにしてもらうスペースを作ろうとしています。

起業を研究するNPO法人Ewing Marion Kauffman Foundationの調べによると、MITの卒業生は約26000の会社を作り、300万人以上の雇用を生んでいるといいます。それでもまだポテンシャルはあるとの分析です。

米国内だけでなく世界中の大小様々な大学がイノベーションと供にスタートアップの世界に進出しており、コーディングに関する新しいコース、ビジネスプランの書き方、会社を始めたい学生が資金調達できるようにサポート等をし始めました。25年前には数百の大学が起業関連のことを提供していましたが、今日ではほとんどどこにでも何かしらあります。

学長による、新しいイニシアティブの目的は、MIT卒業生をもっと起業家に育てるためのもので、MITの人達をエンジニアとしてだけでなく、ビジネスができる、エンジニアにしようという動きです。

MITにはスローンスクールというビジネススクールがあります。これはエンジニアだけでなく、様々なバックグラウンドの人がビジネスを学ぶ為にくる所ですが、ビジネススクールにわざわざいかなくても、本来商売はできるわけで、勉強したことを、実践してお金に変えるという流れはこのままどんどん加速しそうです。

買収による人材確保

大抵の産業では、会社を立ち上げても上手くいかなければ、従業員を解雇して、倒産と申告するわけですが、テック系の会社の場合、そういう清算のしかたではない ”人材確保のための買収”(acqui-hired)という形があります。 それに関しての記事が1月26日のボストングローブにあります。

沢山のスタートアップは50万ドル〜100万ドル(5000万円〜1億円相当)資金調達できても、その後資金繰りに困る事が多いのが現実です。
しかし、事業が上手く行かない会社でもモバイルアプリを作れるエンジニアや、オンラインのサービスやウェブのソフトウエアなどを作れる人材を多く抱えている場合、会社を売却することで起業家にとっては、いい形で会社をクローズでき、従業員も職を失わずにすみ、投資家もお金を取り戻す事ができます。”人材確保のための買収” という形(起業家側からみれば、売却)は、売却側のみんなにとっていいように作用する形のようです。Twitter, Zynga, Dropbox 等の会社も沢山の買収による人材確保を行ってきています。

通常の買収と人材確保の為の買収の違いは、伝統的な買収では製品、売り上げ、顧客ベースの組み合わせを取得するのに対して、人材確保の為の買収では従業員が主な対象になります。そして、会社を売却できた起業家は沢山の金額を手にし、また買収された会社側にも数年いることを要求できるケースが多いようです。

一方、それはボストン界隈の地域にとってはいいことともいえず、このような取引の場合、西海岸の会社のほうが、高い金額をだすので、人材も西海岸に移ってしまうことが多々あるとの事。

現状は人材市場の需要と供給のバランスがひどく悪い状態で、これが続く限り、これからも人材の買収という形は増えていきそうです。

ただし、買収側にとってみれば、これはコストパフォーマンスがいいとは思えない取引でケンブリッジの投資会社のAtlas Ventureによると、このトレンドは長期的には続かないだろうと予測してます。

要するにビジネスとしての仕組みが上手く作れなくても、いい商品が作れる場合こういう、クロージングの仕方が成り立つということですね。
実際、スタートアップを立ち上げて、ある程度の会社規模にまでもっていくのは相当なパワーがいることで、自分の立ち上げた事業が、お金の為なのか、それとも自分の理念や哲学の為なのか、社会を変えるためなのか、ということでそのクロージングの仕方が自分にとって成功といえるのか、失敗なのか違いがでてきそうです。

女性の管理職がふえない現状

マサチューセッツ州は、アメリカの他の地域に比べ革新的な地域ですが、”女性の管理職” という観念でみると、女性の社会進出はそれほど進んでいないということが 女性のリーダーを増やそうと活動している団体 Boston Clubによって発表されました。 ボストングローブ1月23日

以前より、より多くの女性が米国100社の大企業の高い役職に従事しているといいますが、調査をした18州のうちマサチューセッツは8位という結果で、これがエグゼクティブやCEOレベルになると10位になってしまうそうです。(ちなみにトップはミネソタ州、オハイオ州、ニュージャージー州)
マサチューセッツ州のボードのメンバーのうちの13.8%が女性で、(ちなみに、米国全体では15〜17%)それでもこの数字は10年前よりも50%ほどあがっています。そして、100社のうちの3/4に、少なくとも一人の女性がディレクターとしてはいっています。

リーダーシップに多様性がでると、企業のボトムアップができるだけでなく、社会的責任に対する努力が向上する、ということで会社はとりあえず、一人女性を役員にいれようとしますが、少なくとも会社のカルチャーを変えるためには3人は必要、そうすることによって、女性の発言権も増え、役員会が効果的になります。すると、男性のボードメンバーの認識が変わり、女性のディレクターとしてでなく、新しいディレクターとしてみるようになるそうです。

国の100の大企業のうち10社だけが、女性の役員を3人をボードメンバーに迎えています。ボードメンバーの問題は大抵親戚か投資家であり、仲間内になってしまっていることです。ボードメンバーの多様性が必要なことがみんなわかっているのですが、なかなかその状況をかえることができません。
沢山の産業において、かなりハイクオリティーの女性が多いのですが、実際にはみんなが知っている人達が選ばれてしまうそうです。

人的ネットワークが少ないこと、エグゼクティブになれるようなキャリアパスを進んでいる人が(スキルも含め)十分にいないこと、そして、社会的地位にあまり執着しない人が多いといったことが女性の役員の数が増えない原因に考えられるでしょうか。