ボストンから学ぶ、イノベーティブで自立した人材の育て方(6  日本でできること)

働き方の変化

アメリカは転職社会だといいますがそれでも以前はやはり、1、2年で転職すると、いいイメージはなかったようなのですが、ここのところ移動のサイクルも早くなってきているようで特に、スタートアップの世界ではその傾向は顕著です。また自分の会社をやりながら他の会社も手伝っているという複業形態や在宅勤務、フレックスタイムでの勤務形態も多くみうけられます。組織にこだわらなくなれば定年を自分で決められる、働く場所を決めなくて良くなるというメリットが生まれます。(一方場所が拘束されなくなってもメールのおかげで勤務時間を際限なく広げてしまうことができるのも事実ですが。)ただし、いいも悪くも安定しないという可能性も高く、個人力を上げていく必要があります。

さて、今までアメリカの現状をみてきて日本でできること、こんなのあったらいいなと思われる点をいくつか挙げてみました。実際には業界や職種によっては更に色々なことが考えられると思いますし、 すでに動き出していたりするかもしれません。

組織の枠にとらわれないオープンな場とネットワーク力

行政、企業、大学等の組織の内外に、コミュニケーションが取りやすいオープンな物理的な“場”を作ること。そこに行けば最初は特に目的がないとしても、なんらかの出会いがあったり、一見して仕事には関係ないような会話やつながりから新たなヒントが生まれたり新しい人脈ができたりします。縦割り組織や業界に縛られず組織、業界を横断することができる人材や仕組みを大事にすることで分野の違う人たちと交流できる機会が増えます。 組織内で新規事業に取り組んでいる人達は縦割りの組織内で部門を横断して、また組織の外でも様々な分野の人たちと会話ができる人達です。一方、個人レベルでも新しい考え方にオープンであること、自立的に動けることが求められます。工学系が強い大学の一部ではすでにアントレセンター的な仕組みができつつありますが、大学のケースでは学部を横断するような仕組み、また大学の異なる部門間と、産業界との垣根が低くなれば、今までなかった部門間での協働が生まれたり、パテントや技術をビジネスに繋げられる人との出会いも生まれてくると思います。

毎年開催される国際教育交流分野での最大のコンベンションNAFSAでの日本ブース。世界中の大学から国際連携関係者が集まるプラットフォームになっています。大学だけでなく、国の機関、語学学校、留学斡旋機関、学術振興会等グローバルにリアルに繋がることができる場です。このような国際レベルのネットワーキングの場を最大活用する為には普段からローカルな場でネットワーキングに慣れている必要があります。

英語とコミュニケーション力

以前、日本から来た方から50通ほどアメリカの会社にメールを書いても誰も返事をしてくれなかったがどうしたらいいのか、というお尋ねがありました。メールの数はともかく、実はこういう話はよくありこれは個人レベルだけでなく、企業や、行政からの発信しているメッセージも同じです。英語の問題というより、言葉の使い方、発信の仕方の問題であることが考えられます。せっかくいい情報や発表があっても、伝えたいメッセージや目的がはっきりせず、其の他大勢の中に埋もれてしまっているケースが多いです。

今後、日本にいながらにして英語でコミュニケーションを取らないといけないというケースがますます増えてくることが想像できます。しかし、英語ができることとコミュニケーション能力は 、別の問題です。

特に日本語の場合、100%言葉にしなくても通じてしまうこともありますが、一般的には文化的背景や言語が違う人たち相手にはそれは通じない、しかも、英語で表現する場合は、曖昧さというのが通じません。だからといって、長々とした説明文章を書いても益々、相手の興味が薄れてしまいます。 よって伝えたいメッセージの本質が何なのか、ということはまず日本語で明確であることが大事です。しかし、専門分野の言葉はある意味、万国共通で、余計な説明がなくても意外とすんなりわかりあってしまうものです。英語がすごくできることより、本質がわかっていることの方が大事であることを考えると、英語を習うなら自分が日本語でよく理解している分野から入るというのいいのではないかと思います。一番簡単なのは、作品(のようなもの)を見せることだと思いますが。

40代〜の教育プログラム

平均寿命が延びる中で明らかに、元気で動ける時間が伸びています。一方、年齢が上がればいい条件で再就職をするのが難しくなってきます。少子化が進んでいる現在、40代以降をどう過ごすか、社会はどう活用するかは大きな問題です。ITやAIの進歩で今後はどんどん、現在ある職がなくなる可能性が指摘されています。それはブルーワーカーの仕事ではなく、分析したり画像診断したりという高学歴、高スキルを要求されていた仕事にも及びます。環境にどんどん適応するように教育やスキルを追加していかないと、働き場所がなくなる可能性が大きいです。40代のうちに自分を再ブランディングすることで50代からの準備ができそうです。専門家としての道を極めるのか、管理者としてやっていくか、起業するか等々自分のスキル、能力や強みを客観的に評価し、次の20年をみすえて選択と集中する時期なのだと思います。30代後半のマネージャーは自分の組織に見本となるような『素敵な先輩がいない』とぼやいていましたが、もしかすると、自分の理想の将来像に近い人はそもそも存在していなくて、こっちの素敵な人とあっちの素敵な人の掛け合わせで自分が望む姿ができるのかもしれません。

このブログを書いている中で実は一番読まれた記事はもし、あなたが40歳を超えていて、これから英語を使ってビジネスや起業に関わることを学ぼうと思っているのなら...だったのですが、会社内で行われる研修や一部民間機関の提供するコースを除けば、大学で30代後半から40代になっていざ何かを改めて習いたいと思ってもなかなか学位や資格が取れるようなプログラムが大学にはないのではないでしょうか。今さら大学?という感じもありますが結局大半の人は学位や資格がないと判断ができなくて少なくとも少子化が進んでいる現在、40代以降を社会はどう活用するか、各個人はどう過ごすか、は大きな問題です。(そうはいってもあと20年後には本格的に“個人”の時代になって医療のようにより個人にあったカスタムメイドの学習プログラムのようなものが出現しているのかもしれませんが。。。。)

いくつか違った分野の専門を持っている場合、大きな組織を上から管理していくようなマネージャーの育成というより、利害関係が違う団体や部門、企業、国などを横につないでいくコミュニケーションを重視した調整役や交渉役に近い人材の育成というのも考えれられるのかもしれません。

40から50代以降どうありたいか、何ができるかの道が見えてくると定年を自分で決められるようになったり、定年後の社会との関わりかたというのも変わって来るのではないでしょうか。また早めにリタイヤしたとしても、例えばアクセラレーターのメンターになったり、NPOでボランティアというのもそれまでの経験や人脈、知恵はなんらかの形で社会に還元できる方法だと思います。定年退職した人達を生かすことができる組織やネットワーク作りも望まれます。

参考記事:

増え始めるシニア向けの大学講座

55歳からの起業    

理系女子を育てる取り組み

 

 

ボストンから学ぶ、イノベーティブで自立した人材の育て方(5  企業やNPOの取り組み)

企業は各種非営利団体を支援することで人材育成の機会を得ています。NPOのプログラムに参加することで社内起業を促進させたり、企業で働きながら、ボランティアとしてNPOの活動の手伝いをする人たち、もしくは企業自体が人を派遣することでNPOを積極的に支援している場合(例:サイエンスクラブフォーガールズ)やプロボノ活動をしている場合もあります。特に専門性の高い分野の仕事(例:会社登記、税務、弁護士)においてはスタートアップを支援するために積極的にプロボノ活動をしているところは多くあります。これには彼らがスタートアップの成長を見守りながら優良な顧客として育てているという側面もあります。それからTEDxのようなイベントの支援もボランティア活動としてチームビルディングや従業員の教育の為、また新しい商品やサービスの開発の機会に利用して、積極的に企業の外につながりが持てるようにしています。

またイヤーアップのように大学に行けない若者に企業がサポートし1年で職業訓練をして、就職できるレベルまで教育するプログラムを支援することは企業と学生双方にとってメリットがあるものです。イヤーアップは大変成功している例で去年MIT inclusive Innovation Competition Awardsを受賞しました。

またCICの姉妹団体でノンプロフィット団体であるベンチャーカフェは、毎週木曜日にカフェスペースを解放してイノベーターが集まるネットワーキングの場を提供しています。色々なプログラミングを組む事で企業や大学、中高生を含む、様々な層のイノベーション度 を上げるために貢献しています。

参考記事:

理系女子を育てる取り組み

子供への金融教育の必要性

1年で終わる職業訓練プログラム-year up-

グローバル化に乗り遅れている大企業ができること

大企業にいても、スタートアップにいても必要な起業家精神

増え始めるシニア向けの大学講座

平均寿命が延びたことで、いかに健康に長生きするのかということが重要になってきていますが、それと同時に、元気な高齢者が増えて、60歳過ぎの人の為の様々な市場というのも、活性化しています。
35歳をすぎると転職が難しくなるという話がある一方、50代になって新しいキャリアを始める人、60代をすぎてからコンピュータにチャレンジしたり、定年してから起業したりと、人生設計の個人差というのがますます大きくなっているように思います。

定年前に準備を始めて、早期退職して新しいキャリアを歩むという人たちも増えています。アメリカの大学でも、50歳代、60歳代の教育市場というポテンシャルに注目し始めた話がボストングローブの4月3日にありました。アメリカのコミュニティカレッジというのは地域に根ざした、2年制の短期大学で比較的学費もかからないことから、ここで2年学習してから4年生の大学に編入する若者達も結構いるのですが、そんなアメリカコミュニティカレッジ連盟が50歳以上を対象とした、コースを提供し始めました。もし、オバマ大統領が提唱しているように、コミュニテイカレッジの学費が無料化されると、一気に人が集まる可能性もあります。
現状では生涯学習ということでMOOCSや一部の大学では、単位や学位を必要としない人たちには無料でコースの受講ができるようなものもありますが、なんらかの資格や学位をとって、新たなキャリアやビジネスチャンスを目指す人も増えています。

ヨーロッパでも、40歳過ぎて新しいキャリアをしていたり、60歳過ぎた女性が高齢者対象のジムクラスの先生になった例をみてきましたが、そういった例をみていると、受け入れ側もあまり年齢を気にしていないということと、必要なのはスキルだけではなく、その後それをどう市場に売り込むかという能力もかなり必要になるような感じがします。

ハーバード大学は2009年より、アドバンストリーダーシップイニシアチブという、定年後を見据えた50代、60代の人たちがNPOの分野でリーダーシップを発揮できるようにするための育成プログラムを提供しています。スタンフォード大学も似た様なプログラムを提供していますが、62000ドル(ほぼ700万円)かかるということで、なかなか誰もが取れるコースではなさそうですね。。。

TEDx Palais des Nations-人の為に尽くす人達の話-

ジュネーブにあるパレ・デ・ナシオン(国連欧州本部や様々な国際機関が入っている)とボストンを含めた世界22都市を結ぶライブストリームのTEDxが行われました。パレ・デ・ナシオンには、国連難民高等弁務官事務所、国際労働機関、世界保健機構、赤十字国際委員会といった主に人権に関わる機関が多くはいっていますが、今回の背景にあるテーマはインパクト。人道的見地から人の為に働く、科学者、起業家、人権活動家達にフォーカスをあてました。
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そのうちの2人の話を紹介します。

国際障害同盟(IDA)の会長であり、世界盲人連合(WBU)の前プレジデントであったマリアンヌ・ダイアモンドさん。
子供の頃から、本が好き、数学が得意だった彼女ですが、目の見えない彼女は目がみえなくても読める点字本や、オーディオブックのような教材を探すのに苦労したと言います。
大学で数学を勉強してITスペシャリストになった彼女ですが、その後、自分のように目が見えない人のために、尽くす道を選びました。
それは御自身のお子さんが同じ障害を抱えていたということも動機になったようです。視覚障害者の問題というのはちゃんとした教育が受けられなくて、雇用される率が低いということだそう。そしてそれは発展途上国では特にひどく、先進国でも就職率は低いという現実があります。教育をしたくても、視覚障害者にも対応している本や学習教材が圧倒的に不足しているということが背景にあるそうです。出版される本の93%は目の見えない人に対応していないという事実があり、その状況を改善する為に、視覚障害者の為の本を作り、プロモーションして、国際的なデータベースに誰でもアクセスできるように活動をしています。
出版される全ての本が視覚障害者でも読める(聴ける)ようにすることが彼女の目標です。

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国連難民高等弁務官事務所のヨーロッパ支局のディレクターであるヴィンセント・コーチェテル氏は1998年、37歳のときチェチェンにおいて任務中に突然銃をつきつけられ拉致され、317日間監禁された方なのですが、彼はある意味幸運にも生きて戻ってこれた、でも同じような任務についていた同僚の中にはなくなられた方達も多くいるわけです。そして、この人権に関わる活動をされている中で、任務中に怪我をしたり、亡くなる方というのがここ十数年でどんどん増える傾向にあるそうです。
拉致された始めの3日間は車のトランクの中で車から車へと移動させられ、その後地下牢のような真っ暗な場所で、1日2回のスープとパンをもらい、15分のろうそくの明かり、トイレットぺーパーもないところですごし、また数日後に移動したところでは45分の明かりと音楽がもらえ監禁されている時に、彼らの活動に対して感謝の言葉をかけてきた人もいるそう。
”全ての命は重要なのです、それは津波の被害者も、難民も同じなのです”
大変なめにあってもなお正義の為に、人権の為につくす決心をさらに強くしたようです。

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ボストンでは起業家達のピッチをよくきき、問題を解決しようという情熱やパワーを感じるものですが、今回は人の為に命をかけて尽くす人達の話をきいていて実際プロフィット事業でも、ノンプロフィット事業でも、自分の職務、役割、夢に対する情熱、パワー、信念というのは、起業家の持つものと同じような強さを感じましたね。
そしてたぶんとてもシンプルなことですが、どの分野でも成功する人というのは、自分の役割を100%全うする人達なんでしょう。

スタートアップに資金を提供するようにNPOに寄付をする団体-SheGives-

アメリカにいると、いろんな場所で寄付をする機会があります。それはチャリティーイベントであったり、電話での寄付のお願いであったり、ダイレクトメールであったり、同窓会の寄付だったり、近所の子供が学校での行事の為にお金を集めにきたり、色々です。最近はクラウドファンディングの認知度もあがってきていますし、寄付をする側だけでなく、集める側にも、なりえるわけですが、寄付ということが、特別な人が、特別な時にする事ではないというのはいい事だと思います。

2012年のGiving USAのデータによると、全米での寄付金合計額、3160億ドルのうち個人からが72%、企業から6%、そして、内訳は宗教に32%、教育分野に13%わたっています。人は自分が価値が見いだせるもの、そして信じているものに寄付をする傾向にあり、年収が高いから沢山寄付するとは限らないそうです。

そんな中、ボストンで成功している女性の起業家達が地元のNPOをサポートする為に、去年SheGivesという団体をたちあげました。(ボストングローブ 2月24日)SheGivesは個人投資家や起業家、友人達からこの5ヶ月で23万5千ドルを集め、8つの社会的なミッションの為に活動しているNPOに資金を提供する予定だそうです。8つのNPOの中には以前にこのブログでも紹介したScience Club for Girls(理系女子を育てるプログラムを提供)やその他、アートセラピーを行うRaw Art WorksCollege Bound Dorchesterという高校生の為に大学進学を手伝う団体等があります。

去年この団体を立ち上げたボストンヘッジファンドのパートナーでもあるバーネットさんは、多くの女性達は、もっと慈善団体に寄付したくても忙しいので、どの団体が価値があることをしているのか調べる暇がないということを知りました。そこでSheGivesがデューディリジェンス(多面的な企業調査)を行い、メンバー制にして現在約100人のメンバーがいるそうです。メンバーは2年間は毎年1000ドル〜2500ドル寄付しなければなりません。(もちろんもっと寄付したければ、それでもかまわないそうですが。)

寄付をする相手は誰でもいいわけではない、得に成功した人ほど、どこに使うかということはシビアになるようです。自分たちが寄付する団体は、社会に本当に貢献しているのか、世の中に必要とされているのか、ということを考えると、NPOでも、一般企業でも同じといえそうです。
そして、SheGivesを立ち上げたバーネットさんは “寄付することで違った意味のリターンをえることができる” といっています。それは、自分たちが気にかけている分野において状況を変えようとして頑張っている人達や団体に自分も貢献できると感じること、だそうです。

以前紹介した、“ハッピーマネー、賢く使う科学”という本で、他人に投資することで人は幸福を感じる、とありましたが、まさにその幸福感が彼女達のリターンだといえそうです。

関連記事:
理系女子を育てる取り組み
お金で幸福が買えるらしいことが判明-ハッピーマネー、賢く使う科学-

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